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2022/11/29

50年前から全ての部活が週3日 ラグビー部は全国常連の高校が示す部活動改革成功のカギ

ラグビー部は静岡県内屈指の強豪で全国大会でも勝利

■静岡市の静岡聖光学院 部活は1時間半×週3日

静岡市にある私立の中高一貫校・静岡聖光学院は、50年前から全ての部活動を週3日としている。限られた時間で効果的な練習方法を探し、中でも高校のラグビー部は全国大会常連となっている。ラグビー部GMで部活動統括を務める奥村祥平さんは、来年度から公立学校で導入される部活動改革にはメリットがあると指摘し、オンラインの活用を勧めている。

 

静岡市の中高一貫校・聖光学院は1969年に中学校、その3年後に高校が開校した。50年前から今も継承されているのが、部活動の週3日制。全ての部活が火、木、土の週3日に限られ、練習時間も1時間半と短い。冬季期間の11月から2月までは1時間と、さらに短縮される。

 

土日は丸一日、平日もほぼ毎日部活をする中学や高校が少なくない中、聖光学院は限られた時間で最大限の成果を出す方法を追求している。特にラグビー部は7度の全国大会出場を誇り、超短期集中型の練習で結果を出している。

 

公立校の部活動は来年度から大きく変わる。教員の働き方改革の一環で、負担を軽減するために中学では部活が地域移行される。高校でも中学と同じ考え方で部活動改革を進めていく。

運動部だけではなく自然科学部などの文化部も活動は週3日

■部活の地域移行は生徒の成長につながる好機

聖光学院は私立のため、部活動改革の影響を受けない。そもそも、練習が週3日で計4時間半であれば、教員が部活動に割く時間は長くない。昨年までラグビー部監督で、現在はGMと部活動統括を務める奥村さんは、部活が地域移行する流れに賛成している。

「学校以外の人との交流は生徒の成長につながります。特に、専門性を持った人から教わるのは貴重な経験です。教師は生徒と毎日過ごすので、どうしても関係性がマンネリになりやすい面があります。そこに違うエッセンスを持った人が入るのは大きなメリットです」

 

奥村さんのもとには、聖光学院の部活を参考にしようと全国各地から中学や高校の教員が意見や助言を求めにくる。地域移行や外部指導者への委託に不安を感じている相手に「何を強化したいのか明確にする必要があります」とアドバイスしている。意図や目的もなく外部に委託するのは責任放棄となり、結果的に生徒に影響が及ぶ。

 

部活動改革の課題と指摘されているのが、主に人材の確保と財源の2つ。奥村さんは外部指導者に依頼する場合、直接教わることにこだわる必要はないと強調する。自分の地域にふさわしい人材がいなくても、全国には様々な専門家がいるため「グラウンドに来てもらわなくても、オンラインで学べることはたくさんあります。人材バンクがあったら、おもしろいと思います」と話す。

剣道部には留学生も所属

■「実戦だけが練習ではない」 コロナ禍でオンライン活用

聖光学院のラグビー部では昨年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で活動が大幅に制限された。ただでさえ、週3日と練習時間が限られる中、大事な花園をかけた大会前も全体練習ができない期間が続いた。そこで活用したのがオンラインだった。

 

それぞれの選手が自宅でパソコンやスマートフォンをつなぎ、オンラインでトレーニングする。そして、県外にいるラインアウトモール(選手が集まって押しくらまんじゅうのような状態で押し合うこと)の指導に長けた専門家にオンラインでポイントを教わった。その後の試合で、チームはラインアウトモールから2つのトライを決めている。奥村さんは言う。

 

「実戦だけが練習ではありません。頭で理解しなければ体は動かないので、頭を鍛えるだけでもパフォーマンスを上げられます。その地域に人材がいなければ、オンラインでレクチャーしてもらえます。VRといったテクノロジーが進化すれば、直接来てもらうのと変わらないくらいの指導を受けられるかもしれません」

 

■「制限があるから考えて、新しいものが生まれる」

オンラインを最大限生かせば、自分が未経験の部活で顧問となった時も問題を解決できる。顧問に知識や技術がなくても、生徒たちは画面を通じて遠く離れた外部指導者からアドバイスを受けられる。奥村さんは「顧問は分からないことを調べて、必要に応じて外部の専門家に指導を依頼すれば良いと思います。教師は万能なわけではないので、生徒の力になれる方法を考えることが大事です」と語る。

 

もちろん、外部指導者への依頼は無料ではない。子どもを学習塾に通わせるように家庭が費用を負担したり、税金を投入したり、スポンサーとなる企業を探したり、何らかの方法が必要になる。ただ、奥村さんは「部活を今まで通りにしないことが大事」と力を込める。

 

「制限があるから人は考えて、新しいものが生まれます。新型コロナによって、オンラインが広がりました。科学は進歩しているので、新型コロナが収まったからといって、元のやり方に戻したらいけないと思うんです。部活動改革を決めたのであれば、部活の在り方を再解釈、再定義して、持続可能な新しい形にするのが大切だと思います」

 

変化を恐れ、否定ばかりしていても前に進めない。聖光学院も部活の常識を覆す週3日制が理解を得られず、否定的な声が大きくなった時期があった。しかし、限られた活動時間で成果を出し、部活以外の時間を課外活動や勉強にあてて学生生活を充実させている。部活動改革も考え方や方法次第で、今以上の充実感や新しい価値観を生み出せる可能性を秘めている。

 

(間 淳/Jun Aida

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