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2022/12/07

「許されないのは当然だが…」、「いつか私も…」 裾野市さくら保育園の暴行事件に現役保育士の嘆き

暴行の疑いで保育士3人が逮捕された「さくら保育園」

■「子どもがかわいい気持ちだけでは心が折れそうな時ある」

静岡県裾野市にある私立さくら保育園で、園児に暴行を加えたとして保育士3人が今月4日に逮捕された。静岡県内の他の保育園で働く現役の保育士は怒りを口にしながら、事件の背景にある別の問題も指摘する。保育士の環境が改善されない限り、再び同様の事件が起こる可能性が高いと感じている。

 

暴行の疑いで逮捕されたのは、3人の保育士。さくら保育園や裾野市は日常的な虐待の可能性も明らかにしている。園児や保護者の信頼を裏切った園の責任は重い。

 

取材に応じた静岡県内の保育士は怒りを隠さなかった。足をつかんでの宙づりや頭部の殴打など、さくら保育園であったとされる園児への虐待行為。自身が勤務する保育園とつながりがないとはいえ、許せなかった。

 

「報道されていることが事実なら、被害を受けた園児はもちろん、暴行を目にした園児の心にも深い傷が残ってしまいます。まだ、力も弱く、助けを呼ぶこともできない子どもに対して許されない行為です」

 

そして、怒りとともに沸き上がっているのが不安。「もしかしたら、自分の保育園でも」、「このままでは、いつか私も」。この保育士は、事件の背景には一向に改善されない職場環境があると考えている。

 

「子どもたちへの虐待が許されないのは当然、大前提です。ただ、子どもたちがかわいいという気持ちだけでは心が折れそうな時はあります。さくら保育園の事件を知って、いつか自分や自分の保育園でも同じようなことが起きてしまうのではないかと不安になりました。小さい頃から憧れて保育士になりましたが、夢がある仕事と胸を張って言えるか問われると複雑な面があります」

 

■保育士の給与は平均以下 さくら保育園の募集は月収20万円

保育士が相手にするのは子ども。中には言葉も通じない年齢の園児もいる。当然、思い通りにいかないことは多い。園児たちが怪我をしないよう常に目を配り、保護者の要望にも可能な限り応えようとする。

 

「保育士は『やって当たり前』と見られ、失敗すれば強く非難されます。保育時間以外の雑務も多く、拘束時間が長いわりに待遇は決して良くありません。一歩間違えたら園児を危険にさらしてしまうというプレッシャーと隣り合わせなので気を張っている時間が長く、頭や目にも疲労感があります。離職率が高い上に求人をかけてもなかなか集まらないので、現場の負担は大きくなる一方です」

 

かつては将来の夢で上位に入っていた保育士だが、最近は深刻な人材不足に直面している。やりがいがある一方、仕事内容に対して給与が低いという声は大きい。

 

財務省による昨年の発表によると、女性保育士の平均月収は30万2000円で、全産業の平均より5万円少ない。さくら保育園が今年6月に募集していた保育士の条件は、1日8時間勤務、週休2日で月収は約20万円だった。仕事を選ぶ理由は金銭だけではないが、子どもの命を守る仕事への対価として十分とは言い難い。

 

■逮捕された保育士を知る保護者からは驚きの声も

逮捕された保育士を知る保護者からは怒りの他に、驚きの声も上がっている。さくら保育園に自身の子どもを預けていた母親は「逮捕された3人のうちの1人は、よく知っています。普段は優しくて、子どもが危ないことをした時はしっかり注意してくれる保育士さんでした。子どもも慕っていたので信じられない部分があります」と戸惑っていた。

 

別の保護者からも「保育園内のことを全て保護者が把握できるわけではありませんが、少なくとも日常的に暴力をふるうような人には見えませんでした。子どもも遊んでもらっていたみたいで、逮捕されたうちの1人の名前は家でよく聞いていました」と話した。

 

保育士が逮捕されて事件は終了ではない。暴行を受けたとされる園児に加えて、他の園児への影響も懸念されている。今回の事件は、他の保育園では起こり得ない特殊なケースだったのか。一見、何の問題もない保育園や保育士の声に耳を傾け、保育園の在り方や保育士の待遇を抜本的に見直す時期に来ている。

 

SHIZUOKA Life編集部)

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