2022/12/10
小、中学生から必要な「判断+技術」 Jリーグ315試合に出場した元DFの選手育成法
■昨季まで藤枝MYFCでプレー 秋本倫孝さんはスクール運営
Jリーグで315試合に出場し、39歳まで現役を続けて導き出した答えは「判断」+「技術」だった。昨シーズンまで藤枝MYFCでプレーした静岡市出身の秋本倫孝さんは今、藤枝市で小、中学生を対象にしたサッカースクール「MICHI FOOTBALL SCHOOL」を運営している。子どもたちの将来を見据え、技術に加えて、瞬時の判断力を伸ばす指導を掲げている。
スクールの練習場所にしている藤枝市内の中学校は、十分な広さがある。だが、秋本さんが組むメニューは、フットサルコートの3分の1ほどのスペースで収まるものが大半を占める。
まずは、ボールを使わないトレーニング。選手たちは楕円になり、秋本さんの「右」、「左」、「1」、「2」という声に対して瞬時に動く。「右」は右側へ1人分移動、「1」はジャンプなど、その場で決められたルールに反応する練習だ。
1対1のメニューも脳を使う要素を取り入れている。ゴールに見立てた赤や黄色のコーンを四方に置き、秋本さんがタイミングを見て色を指定する。その声に合わせ、ボールを持っている選手は指定された色のコーンへゴールを決めるためにドリブルし、もう1人の選手はディフェンスする。
■サッカーは判断と技術の競技 小学生世代から両方を追求する指導
その他にも狭いスペースでドリブルをしながらの鬼ごっこなど、練習メニューは豊富。その狙いを秋本さんは、こう話す。
「現役生活から学んだのは、サッカーは判断と技術のスポーツだということです。どちらか1つではなく、小学生年代から両方を追い求めていく指導をしています。たとえ今は完全に理解できなくても、中学、高校で判断力は生きてきます」
秋本さんはサッカーの名門・清水商業(現:清水桜が丘)から法政大を経て、ヴァンフォーレ甲府でプロ生活をスタートさせた。京都サンガF.C.とカターレ富山でプレーした後、タイ・ホンダFCで海外生活を経験。引退した昨シーズンまで3年間は藤枝MYFCに所属した。
Jリーグの出場は通算315試合。プロサッカー選手として過ごした17年間、秋本さんが学んだのは正確な技術と技術を生かす判断力だった。精度の高いプレーには、どちらも欠かせない。そして、重要性を知るのは小学生でも決して早くないと考えている。
■練習にゲーム性 根拠のないプレーは考えさせるメリハリ
足だけではなく、目も頭もフル回転させる練習。小学生には難易度が高いように感じるが、大人が思っている以上に子どもの適応力は高い。秋本さんのメニューに初めは戸惑っていても、3回、5回と繰り返すうちに動きが変わる。
そして、選手たちはゲーム性のあるメニューを楽しみながら、仲間に負けたくない気持ちが芽生えてくる。秋本さんが「水分補給しよう」と声をかけても、「もっと続けたい」と返ってくる。
秋本さんはそれぞれのメニューを説明した後、練習の流れを止めない。ただ、根拠の見えないプレーがあった時は一度、中断して選手に問う。
「今、何で右に動いた?」
「そのトラップは最善の選択だった?」
常にボールも人も動くサッカーは、一瞬の判断で結果が変わるケースも少なくない。質の高いプレーをするには、動き出したり、ボールを受けたりする前に複数の選択肢からベストな方法を導き出す必要がある。秋本さんは「子どもたちに自然と考える習慣を身に付けてほしいんです」とパフォーマンス向上につながる判断の大切さを伝えている。
■宿題を出してもチェックせず 選手の考える力をサポート
スクールは月、木曜日の週2回。スクールに通う選手の大半はチームに所属し、週末はチームで活動している。秋本さんは、指導が週1、2回に限られる選手たちに宿題を出す。ただし、強制ではなく、できているかチェックするわけでもない。
「ドリブルのような練習は、みんなで集まってやる必要はありません。自分の時間に、どれだけ継続して練習できるかだと思います。結局は自分で考えて動かないと上手くなりませんし、そこに気付くサポートをできればと思っています」
現役時代のスタイルのように、秋本さんは派手な広告でスクール生を募集することはない。だが、口コミで評判が広がり、当初1人だったスクール生は半年後、それぞれのコマで平均10人集まるまでになった。
「1人1人に合った指導を続けていくつもりです。自分のためになっていると感じる子どもたちを少しでも増やしていけたらと思っています」と秋本さん。プロ生活17年間で得た財産を地元・静岡のサッカー少年たちに継承している。
(間 淳/Jun Aida)