2023/01/22
LGBTQをカミングアウトされたら 当事者のタレントが知ってほしい「とっさの一言」
■タレント西原さつきさん 静岡市の中学校で特別授業
「私はセクシャルマイノリティ(性的少数者)です」。友人や自分の子どもに打ち明けられたら、驚きや戸惑いを表に出す人は少なくないだろう。タレントの西原さつきさんは、自身がトランスジェンダーだとカミングアウトして苦い経験をしたことがある。静岡市の清水第四中学校で講師を務めた特別授業では、カミングアウトされた時に相手を救う「とっさの一言」を生徒に伝えた。
セクシャルマイノリティやLGBTQといった言葉は、社会で一般的になってきた。LGBTQの割合は10人に1人とも言われており、性の悩みをカミングアウトされる人は増えているとみられている。
清水第四中学校の全校道徳で授業を行った西原さんは、セクシャルマイノリティであるとカミングアウトされる人の傾向を説明した。
「データがあるのですが、優しそう、動じない、秘密を守る人はカミングアウトされる傾向にあります。カミングアウトされたら、自分は相手に信頼されていると解釈してください。性の話をする時は慎重に相手を選びますから」
性の秘密を打ち明ける人たちの多くは、相手にアドバイスを求めていないという。一歩踏み出した理由は「話を聞いてほしい」、「自分を分かってほしい」という願望だ。西原さんは言う。
■「教えてくれてありがとう」 カミングアウトした人を救う一言
「急にカミングアウトされると困ってしまうかもしれません。その時に、『教えてくれてありがとう』と言われると、カミングアウトした側は救われます。カミングアウトされた人は色々と質問するのではなく、相手のタイミングを待って見守るのが良いと思います。両親、友達、先生の理解で本人の気持ちは変わってきます」
俳優やボイストレーナーとして活躍する西原さつきさんは16歳で女性ホルモン剤を使用し、26歳の時に性別適合手術を受けた。今のように公にする以前は、個々の友人や家族にトランスジェンダーであるとカミングアウトしていた。
秘密を明かしたことで疎遠になった友人もいたが「これが私なので離れてしまうなら仕方ないかなと思いました。逆に、カミングアウトして仲良くなった人もいます。反応はバラバラです。最初はコンプレックスで誰にも言えませんでしたが、個人的にはオープンにして良かったと感じています」と話す。
西原さんがトランスジェンダーを公言したのは、性別適合手術を受けた26歳の時だった。性別を変えたら結婚しようと約束し、7年ほど同棲していたパートナーと破局。次の恋へと歩みを進めようと考えた時に、全てをオープンにして自分らしく生きようと決めた。
「恋愛で体の話をするのは、時間が経つほど言いにくくなります。それなら、全世界的に知ってもらった上で関係を築ける相手が良いなと考えました」
■トランスジェンダー明かして悩んだ時期も…
全世界的――。その言葉通り、西原さんは行動した。「1人1人に会ってカミングアウトするのは重いと感じました」。タレントのはるな愛さんが優勝した大会としても知られるトランスジェンダーの世界大会「ミスインターナショナル」に出場した。
大きな一歩を踏み出した西原さんは「性別を変えなければできなかった経験がたくさんあるので、すごく大事な個性の一部です」と今の生活に充実感をにじませる。だが、かつてはカミングアウトしたことで悩んだ時期もあった。
実は16歳で女性ホルモン剤を使用して体に変化が出た頃から、両親と疎遠になっていた。3年ほど音信不通が続いた24歳の時、祖母の葬儀がきっかけで連絡を取った。自分がトランスジェンダーで女性として生きていくことを告げると、理解を示した父親や姉と対照的に、母親は難色を示したという。
「母は性別がどうというより、健康面や仕事面を心配していました。問題なく社会生活が送れるのかと」
■自分を責める傾向が高い母親 LGBTQ家族のケアも重要
時間を要したが、母親は今、西原さんを応援している。家族は「女の子になってからの方が笑うようになった」とも話しているという。西原さんは自身の経験、さらにはトランスジェンダー支援スクール「乙女塾」を運営している経験から、セクシャルマイノリティは当事者と同じくらい家族へのケアが必要と感じている。
「多くの母親は自分を責める傾向があります。子どもが望む体に産んであげられなかった、育て方が悪かったと自分のせいだと思わないでほしいんです」
家族の理解は何よりも力になると西原さんは強調する。自身の父親に「お前が幸せなら良いよ」と言われた言葉は今も忘れていない。「家族の応援があれば、社会で何か言われても大丈夫な気がします」。どんなに見た目を美しくしていても、家族との関係が途絶えている人は辛そうに見えるという。
友人や家族にカミングアウトされたら。とっさの一言や、その後の言動が相手に与える影響は小さくない。
(間 淳/Jun Aida)