2023/02/25
驚くほど売れなくても譲れない 細部まで精巧な本物志向 創業6年で唯一無二の存在
■静岡市の「トイズキャビン」 創業6年で150種の商品販売
静岡市でカプセルトイを製造・販売している「トイズキャビン」は創業6年で約150種類の商品を作っている。従業員が増えた現在は年間50種類ほどを販売しているが、業界としては少ない方だという。商品化には利益とは別に譲れない明確な基準があり、会社の哲学を表現する商品もある。
真新しい建物の1階には、約50種類のカプセルトイの販売機が並び、歴代の商品も展示されている。トイズキャビンは昨年8月、静岡市葵区にミュージアム兼直営所をオープンした。
カプセルトイは、おもちゃ店や商業施設で販売するのが一般的で、直営店を構えるのは珍しい。売り切れになって他では販売していない商品が並んでいることもあって、県外からも訪れる人が多い。購入するのは大半が大人。ワクワクしながら100円玉を入れて販売機のハンドルを回し、手やポケットにカプセルをいっぱいにして帰る人も少なくない。
トイズキャビンの商品が大人の心を躍らせる理由は「本物志向」にある。ドラえもんのスモールライトで実物を小さくしたように、どの商品も細部まで精巧に作られている。中でも、社長の山西秀晃さんが自社を象徴する商品に挙げるのが「戦国の茶器シリーズ」だ。
■「手間をかけていますが、驚くほど売れません」
会社設立2年目の2018年に第1弾を発売して、今年1月に最終章となる第5弾の販売を始めた。400年前の茶器をイメージし、リアリティを追い求めたシリーズ。山西さんは「それぞれの茶器にストーリーがあります。うちの会社がカプセルトイを作る意味、立ち位置を明確にしてくれてる商品です」と説明する。
第1弾から5弾まで5年。細かい部分にもこだわるため、新商品を届けるまで1年かかる。時代が徐々に下り、最後は豊臣秀吉による天下統一で茶器のストーリーが幕を閉じる。シリーズ化しているのは利益を出せるからではない。山西さんは「手間をかけていますが、驚くほど売れません。カプセルトイとしてはマニアックですから」と笑う。
戦国の茶器シリーズを購入するのは、お茶か歴史に興味がある人に集中する。キャラクターものなどに比べると、需要は圧倒的に少ない。だが、このシリーズにこそ、山西さんは会社を運営する意義を感じている。
「手間がかかっても精巧なものをカプセルトイで表現できる会社と知ってもらいたいです。目指す方向は間違っていないと戦国の茶器シリーズで実証できていると感じています」
戦国の茶器シリーズよりも売れる商品は山ほどあるという。ただ、販売を終了してからの問い合わせは後を絶たない。普段カプセルトイを購入しない人たちが茶器の存在を知り、「購入したい」と連絡してくるのだ。
■「仕事猫」を商品化 人気キャラの力に頼らない企画力
ほかにも乗り物や家具など本物を再現した商品を特徴とするトイズキャビンだが、一部でキャラクターグッズも販売してる。その代表が「仕事猫」。イラストレーター・くまみねさんが描く猫をモチーフにしたキャラクターを、カプセルトイとして商品化している。
キャラクター商品は一過性のブームで終わるケースが少なくないが、仕事猫のカプセルトイは4年以上経っても人気が衰えていない。今でも最初に販売した商品が売れているという。キャラクター自体の魅力に加えて、その力に頼らない商品がロングヒットの要因といえる。
仕事猫の商品を販売するのは、数か月に1つのペース。キャラクターの特徴を生かし、消費者のニーズにも応える商品の考案には時間が必要になる。山西さんは「商品化の許諾をいただき、安心して開発を任せていただけているのでありがたいです」と話す。1つ1つの商品を丁寧に仕上げる姿勢が、キャラクター権利者の信頼につながっている。
カプセルトイ業界では、年間100種類以上の商品を販売する会社も少なくない。トイズキャビンでも数を重視すれば、同等の種類に対応できる。だが、従業員が増えてきた今も年間の販売数は50種類ほど。勝負している土俵、商品の価値観は別の部分に見出している。
(間 淳/Jun Aida)