生活に新しい一色
一歩踏み出す生き方
静岡のニュース・情報サイト

検索

情報募集

menu

2023/02/26

育成法のヒント 怒りを抑える効果も 野球指導者が選手の誕生月を知るメリット

■富士市出身・東農大の勝亦陽一教授 誕生月とスポーツ参加を研究

スポーツの指導者は子どもたちの生まれた月を把握しておかないと、選手の未来を閉ざしてしまうかもしれない。少年野球からプロ野球まで幅広いカテゴリーの選手を指導している東京農業大学教授の勝亦陽一さんが、掛川市で講演を行った。小、中学生の指導者は選手が何月生まれなのか知っておくと、育成方法のヒントになるだけでなく、怒りを抑えることにもつながるという。

 

富士市出身の勝亦さんは現在、野球を中心にパフォーマンス向上を目指す選手をサポートしている。力を無駄なく発揮する体の使い方や工夫を凝らしたトレーニング指導メニューは、選手に加えて指導者からも信頼を得ている。

 

勝亦さんは子どもたちの可能性を最大限引き出すため、指導に加えてスポーツ参加の研究も進めている。ここ数年、特に注目されているのが「生まれ月の研究」。選手の生まれた月が、競技へどのように影響するか分析した内容だ。

 

生まれ月への関心を持ったのは小学生の時だった。勝亦さんは少年野球で2年連続全国大会に出場し、3位に入っている。中学でも軟式野球で全国の舞台に立った。

 

勝亦さんは野球を始めたのが小学4年生と比較的遅かったが、成長が早かったこともあって少年野球チームでレギュラーだった。全国大会で優勝を逃した時には控え選手も一緒に悔し涙を流し、中学で再び日本一を目指そうと誓ったという。しかし、中学で野球を続けたのはレギュラーのメンバーだけだった。この頃、ある疑問が芽生えた。

 

「野球が楽しい、試合に負けたら悔しいと思っているのはレギュラーだけなのかもしれない。考えてみると、レギュラーになっているのは成長が早くて体の大きい選手が多い」

少年野球の指導者らが参加した掛川市の講演会で講師を務めた勝亦さん

■選手の可能性狭める誕生月の無関心 野球人口減少の恐れも

勝亦さんはチームメートが何月生まれなのか確認してみた。すると、レギュラーは4~6月生まればかりだった。勝亦さん自身も5月生まれだ。早熟な選手は少年野球で大きなアドバンテージがあり、出場機会に直結すると知った。そして、晩熟で試合に出られない選手は野球から離れていくことを目の当たりにした。

 

大学、大学院へと進んで本格的に生まれ月の研究を進めると、子どもの頃に立てた仮説が正しいと証明された。【生まれ月を知る・子ども編】の記事で詳細を示したように、生まれた月が早い選手ほど全国大会や選抜チームでの出場経験に恵まれ、中学や高校でも野球を続ける傾向が顕著だった。

 

プロ野球選手の数も傾向は同じだが、プロ入り後は立場が逆転する。タイトルを獲得する選手の割合は、早生まれの1~3月が最も高い。プロで大成する選手に早生まれが多い傾向は、サッカーも同じだ。

 

勝亦さんは少年野球の指導者が選手の生まれた月を知っておかないと、選手の可能性を狭め、競技人口の減少も招くと強調する。少年野球では、成長の早い4~6月生まれの選手が打線の中軸を担い、投手や捕手といった主要なポジションに就く傾向が高い。

 

一方、成長期が遅い早生まれの選手は犠打や進塁打など、つなぎの役割を求められたり、極端なチームではバットを振らずに四球を狙うように指示されたりすることもある。勝亦さんは「晩熟な選手は野球に楽しみを感じられず、野球から離れていきます。自己肯定感も低くなってしまい、スポーツ自体を嫌いになってしまう可能性もあります」と指摘する。

勝亦さんは少年野球からプロ野球まで幅広いカテゴリーの選手のトレーニングもサポート

■指導者に問われる勝ち方と理念 勝利と育成は「二者択一ではない」

また、早熟な選手にも懸念がある。成長期が早いことで体の大きな選手を指導者が酷使すれば、怪我につながる。また、選手自身も有能感が慢心となり、努力を怠って才能を伸ばしきれない可能性もある。こうしたことを避けるために、勝亦さんは指導者が選手の生まれ月を把握する必要性を訴える。

 

「早熟な選手を集めればチームは強くなるかもしれません。勝利を目指すことは大切ですが、問われているのは勝ち方や理念です。勝利と育成は二者択一ではなく、どちらも大事。そのために、個々の選手の成長スピードに合わせた指導や伝え方が重要です」

 

そして、生まれ月の知識は指導者が感情をコントロールする時にも有効となる。勝亦さんは、こう話す。

 

「例えば、なぜ打球が飛ばない、強い送球ができないと不満や怒りの感情が沸いた時、その選手が早生まれで成長期が遅いと知っていれば、仕方ないと心を落ち着かせられます。3月生まれと4月生まれは同じ学年でも、ほぼ1年違うわけです。子どもの1年間は大人が思っている以上に大きな差です。指導者が劣等感を抱かせれば選手の可能性を狭めてしまいます」

 

勝亦さんは生まれ月によって子どもたちの未来が影響されないように、研究結果を広めている。また、複数のチームを集めて、生まれ月や体の大きさで選手を分けて試合する取り組みを推奨している。

 

小、中学生は自分の意思で決められることばかりではない。指導者をはじめとした大人が担う役割や責任は大きい。

 

(間 淳/Jun Aida

関連記事