2023/05/20
「実態把握と程遠い」、「予想通り」 静岡県の虐待件数 東京に次ぐ全国2番目
■初の全国調査 「不適切な保育」は914件
静岡県裾野市の保育園で発生した暴行事件などを受け、こども家庭庁が不適切な保育の実態調査を実施した。全国の市区町村を対象にした調査は初めてで、914件が確認された。そのうち、90件が虐待と判断される事案で、静岡県は19件で東京に次ぐ多い数字となった。
こども家庭庁によると、全国の自治体が不適切な保育が疑われる情報1492件を基に事実確認した結果、914件が不適切と判断された。都道府県別では東京都が最多の173件で、次いで岐阜県の79件、神奈川県の65件だった。静岡県は50件となっている。
この914件のうち90件は、子どもを激しく揺さぶるなどの虐待と判断された。静岡県は19件が確認され、東京の24件に続いて全国で2番目に多かった。
今回の調査は昨年4月から12月にかけて、全国にある2万2720の保育所から寄せられたケースを対象とした。回答した保育所は2万1649か所で、回答率は95.3%となっている。
■不適切な保育「ゼロ」の保育所7割以上 現場の保育士は違和感
調査では「不適切な保育」の定義がなかったため、自治体によって判断にばらつきがあった。1万5757か所の施設が0件と回答したのに対し、82か所の施設が31件以上と答えている。そこで、不適切保育の考え方として4つの種類を挙げている。
①身体的虐待:殴る、蹴る、激しく揺さぶる、逆さ吊りにする
②性的虐待:わいせつな言葉を使う、下着のままで放置する
③ネグレクト:食事を与えない、おむつを替えない
④心理的虐待:無視する、バカなど言葉で傷つける
虐待と判断されるケースが全国で2番目に多くなった結果について、静岡県の保育関係者に驚きは少ない。ある女性保育士は「予想通りでした」と表情を変えない。その理由について、こう説明する。
「今回の調査は昨年裾野市で起きた事件を受けてのものです。静岡県の自治体が不備なく真摯に報告しなければいけないと思うのは当然です。もし、この調査のきっかけとなる自治体ではなかったら、ここまで数字は増えていないはずです。当事者意識のない自治体では形式上の報告で済ませているので、数字が少ないだけだと感じています」
子どもの数で比べれば、静岡県よりも上位にくる自治体はもっと多い。調査の“当事者”となっている静岡県の保育所のように積極的に調査に協力すれば、「静岡県の順位は2位のはずはない」とこの保育士は主張する。
■「形だけで本気度伝わらない」 調査方法の見直し提唱
一方、静岡県内の別の保育士は「調査は実態の把握とは程遠い」と冷ややかに見ている。調査に回答した保育所のうち7割以上が「不適切保育0件」としていることに「保育の現場を知っている人間からすると、この数字はあり得ません」と疑問を投げかける。
「今回の調査では不適切保育がどんなものか定義されていませんでした。客観的にネグレクトと判断される事案でも、自分たちの保育所にとって適切な理由があれば、不適切な保育にならないわけです。調査は形だけで、本気度が伝わってきません。本気で実態を把握するつもりがあるのなら、調査方法を見直すべきです」
今回の調査で虐待と判断された事案は早急に解決しなければならない。それに加えて、こども家庭庁や自治体と現場の保育所で調査に対する見解や温度差がないのか検証する必要もありそうだ。
(SHIZUOKA Life編集部)