2023/07/04
「野球をあきらめてほしくない」 修理職人が立ち上げ グラブおじさんプロジェクト
■加速する競技人口減少 要因の1つに野球用具の価格
経済的な理由で野球をあきらめる子どもを1人でも減らしたい。静岡県焼津市でグラブ・スパイク修理専門店「Re:Birth」を経営する石川能さんが、「グラブおじさんプロジェクト」を立ち上げた。全国から使わなくなったグラブを集めて修理し、子どもたちに届けることで、野球少年・少女を増やそうとしている。
学童野球の競技人口減少が叫ばれて久しい。子どもたちに圧倒的な人気だった、かつてのような存在感はない。他の競技やスポーツ以外の選択肢が増える中、野球をする子どもは10年、20年前と比べて大幅に減っている。
野球を選ぶ親子が減った理由には、厳しい指導や長時間練習、保護者の当番制などが挙げられる。そして、もう1つ。子どもたちに興味があっても保護者に高いハードルとなっているのが費用面だ。
野球は“初期費用”が他の競技と比べて高い。グラブやバットは3万円、5万円するものが少なくない。ユニホーム、帽子、ソックス、アンダーシャツなど最低限必要な用品のリストを見た保護者が、子どもを野球チームに入れることをためらうのはうなずける。
スポーツ用品店勤務を経て独立した石川さんも、野球人口の減少や野球用品の金銭的な負担の大きさを肌で感じてきた。「経済的に苦しい家庭は野球が選択肢にならないと思います」。原材料費の高騰で、今後もグラブを中心に値上がりが予想される中、自身の経験を生かして野球の競技人口を増やす取り組みができないのかを考え、思い付いたのが「グラブおじさんプロジェクト」だった。
■使わなくなった子ども用グラブを募集→修理してひとり親世帯へ
グラブおじさんプロジェクトでは、使わなくなった子ども用グラブを全国から募集して、使用できるように修理する。そのグラブを経済的にゆとりがないひとり親世帯などに届ける。
石川さんは「お子さんが野球を続けるか分からない中で、何万円もするグラブを買うのは保護者にとって簡単な選択ではありません。修理したグラブを無償で届けることで、野球をやってみようと一歩踏み出すきっかけをつくれたらと思っています」と語る。
石川さんはSNSなどで協力を呼びかけ、すでにグラブが集まり始めている。現在、本当にグラブを必要としている子どもたちにグラブを贈る仕組みをつくっている。より多くのグラブを届けるため、取り組みに賛同するスポンサーやグラブ修理の経験がある人も全国から募集している。
石川さんは「プロジェクトで利益を出そうと思っていませんが、簡単な修理を任せる仲間や事務作業をお願いする方に支払う報酬は必要になります。しっかりと仕組みをつくらないと、結果的に子どもたちにグラブを届けられなくなってしまいます」と語る。
経済的な理由で野球を断念する前に、グラブをはめてキャッチボールの楽しさを知ってほしい。まずは、石川さんの地元・静岡県からグラブおじさんプロジェクトの動きを広げていく。
(間 淳/Jun Aida)