生活に新しい一色
一歩踏み出す生き方
静岡のニュース・情報サイト

検索

情報募集

menu

2024/01/30

競技人口減少の要因は少年野球界の“常識” 高校野球の監督が警鐘「変革進んでない」

小学生の硬式野球チームを招いて野球教室を開催した富士高校(富士高校提供)

■富士高校野球部が小学生チーム招いた野球教室

野球の裾野を広げるには、楽しさを伝えるだけでは十分とは言えない。静岡県富士市にある富士高校が28日、沼津市を拠点に活動する小学生の硬式野球チーム「沼津リトルリーグ」の選手を招いた野球教室を開催した。チームを率いる稲木恵介監督は前任の三島南高校の時から園児や小学生を対象にした野球の普及活動を続けており、野球が敬遠される根本的な原因にも目を向ける必要があると訴えている。

 

2022年12月に元メジャーリーガーのイチローさんが直接指導したことでも知られている富士高校は、野球の普及活動に力を入れている。センバツにも出場した前任の三島南高校を指揮していた稲木監督が2022年4月に富士高校へ赴任し、三島南時代に取り組んでいた園児や小学生向けの野球教室を継続している形だ。

 

28日に開催した野球教室は、沼津リトルリーグの川口智監督が稲木監督の取り組みを報道で知ったことがきっかけだった。川口監督がチームOBで西武ライオンズの球団スタッフに「静岡県で野球の裾野を広げようとしている高校野球の監督がいる」と話をしたところ、その球団スタッフと稲木監督は沼津東高校野球部の先輩と後輩の間柄だったことから、両チームにつながりが生まれた。

 

富士高校の野球振興活動の目的は、対象が園児と小学生では少し違いがある。また、静岡県東部有数の進学校という特徴を生かし、野球教室で勉強を教える時間を設ける時もある。稲木監督は、こう話す。

 

「園児への野球交流会は野球を紹介して知ってもらいます。小学生の野球体験会は野球の楽しさを伝えて、学童野球を始める子どもを増やす目的があります。チームへの野球教室は上手くなるコツや喜びを伝えて、中学や高校で野球を続ける子どもを増やす狙いです」

高校生のプレーにくぎ付けになる小学生たち(富士高校提供)

■メニューは野球部員が考案 楽しみながら上手くなる工夫

野球教室のメニューは富士高校の野球部員が考える。大切にするのは「楽しみながら上手くなる工夫」。小学生と高校生では体格、経験、理解力に違いがあるため、富士高校ナインは難しい言葉を使わず、興味を持ってもらえる工夫を凝らす。

 

今回は鬼ごっこを取り入れたウォーミングアップに始まり、コーディネーショントレーニングの要素を含むキャッチボールなど、普段の練習で単調になりがちな定番メニューに遊び感覚を加えた。野球の基本となる大切な動きを楽しみながら身に付ける意図があった。

 

その他にはフリー打撃やノック、富士高校の選手がグラブや体の使い方を教えるハンドリングの練習に小学生が打者で高校生が守備に就くケースバッティングとバリエーション豊富なメニューを考えた。富士高校ナインがスピード感のあるノックやフリー打撃を披露するメニューでは、沼津リトルリーグの選手たちから拍手と歓声が上がった。

 

練習を終えると質問コーナー、さらに記念写真の撮影で締めた。午前8時半に集合して解散まで4時間。半日での終了には、稲木監督のある考えが反映されている。

 

「2014年にこのような取り組みをはじめましたが、今では多くの団体やプロ野球選手による野球教室などが開催されるようになって喜ばしく感じます。一方で、裾野を拡大していかなければいけない少年野球チームの変革は、まだまだ進んでいないように感じています。今回の教室も日曜日の実施でしたが、半日で時間ぴったりに終了させることを意識しました」

小学生向けのメニューや説明に工夫を凝らした富士高校ナイン(富士高校提供)

■「学校生活に支障が出る」 少年野球の丸一日練習に疑問

稲木監督が問題提起するのは、少年野球のマイナスイメージにもつながっている「長時間練習」。中には全国大会に出場するような強豪でも土日祝日を午前か午後のみの半日練習としているチームもあるが、朝から夕方まで丸一日練習するチームが今も主流となっている。稲木監督は小学生のうちから野球だけで休日が終わる生活に疑問を投げかけている。

 

「丸一日練習していると、月曜日からの学校生活に支障が出ると感じています。技術を向上させることは大切ですが、野球だけにとらわれない多くの経験を小学生年代で経験できるようなチームが増えていくことを期待しています」

 

野球人口の減少は長時間練習と無関係ではない。野球に興味はあっても、野球だけで週末が終わることに抵抗があって別のスポーツを選ぶ親子は少なくない。稲木監督は富士高校で土日の練習を昼までにしたり、ゴールデンウィークに休日を設けたりしている。選手たちに野球以外の時間も大切にしてほしいためだ。

 

野球でプロになる選手は、ごくわずかしかいない。小学生の時期に勉強したり、野球以外の習い事をしたり、友だちや家族と過ごしたりする時間は将来の財産になる。野球の競技人口減少に歯止めをかけるには、長時間練習や怒声・罵声といったマイナスイメージの払拭は不可欠となる。

 

(間 淳/Jun Aida)

関連記事