2024/02/13
カメが冬眠しない!? 暖冬や温暖化で生物に”異変” 誤解されがちな2種類の冬眠
■iZooでカメの飼育方法変更 水がぬるくて冬眠しない
静岡県では今冬、気温20度を超える季節外れの暖かさになる日が多い。爬虫類専門家で静岡県河津町にある体感型動物園「iZoo」の白輪剛史園長の連載、今回のテーマは暖冬や温暖化による爬虫類への影響。iZooでも今年初めて、カメの飼育方法を変更した。
静岡県では2月に入って、ヘビが日光浴しているニュースが報道されました。本来は冬眠する時期に気温が高すぎて外に出てきてしまったわけです。その数日後に雪が降りました。雪が降っている時は穴の中で過ごして寒さをしのぐ生物が季節外れの暖かさで外に出て、雪にさらされれば死んでしまうリスクは高くなります。
爬虫類や両生類は変温動物なので、哺乳類以上に気温の変化に敏感です。iZooでも、外で飼育して冬眠させる生物にはすごく気を使っています。ところが、最近は暖冬の影響でカメが冬眠しなくなりました。水がぬるくなってしまうからです。
冬眠しないと弱ってしまうので、今年の冬から飼育の仕方を変えました。今までは水を張って、水に沈んでカメに冬眠してもらうようにしていました。ただ、1年中、日光浴するカメが現れたので、冬になったら水を抜いて落ち葉を敷き、落ち葉の下にもぐって冬眠するような環境を強制的につくりました。気温の上昇によって、水で冬眠させるやり方に限界を感じました。
■暖冬で生物が北上 クマゼミは福島県にも分布
今年の冬に限らず、気候はこれまでのサイクルから大きく外れています。長期的に見た時、生物にどのくらいの影響を及ぼすのかは分かりませんが、少なくとも生物が北上していることは間違いありません。海でも山でも、生息している生物の種類が変わってきています。爬虫類や両生類も北上していて、餌を含めた生態系が変化しています。
今から40年ほど前、生物の専門書にはヌマガエルが名古屋から西にいると書いてありました。しかし、その頃に私は静岡市内でヌマガエルを見つけています。今は関東にもいます。自然に移動したのか、人間の手によって移動したのかは明らかになっていませんが、今までいなかった場所でも生きていけるのは気温の上昇と無関係ではないと思います。
爬虫類ではありませんが、クマゼミは気温と生物の関係を見る上で典型的な例です。昭和の漫画やドラマに出てくる東京都内のセミは全て「ミ~ン、ミ~ン」と鳴くミンミンゼミでした。「シャンシャン」と鳴くクマゼミは箱根の山を越えなかったからです。
静岡県にいるセミは大半がクマゼミで、ミンミンゼミは山にしかいません。東京の人たちが静岡に来ると、クマゼミの声を聞いて静岡にいることを実感すると昔は話していました。でも、クマゼミは徐々に北上し、今は関東どころか、福島県にも分布が広がっています。
■カメとクマは違う 冬眠は2種類
ところで、冬眠という言葉は日本で誤解されている面があります。英語では冬になると無活動状態に引きこもる哺乳類や鳥類の冬眠を意味する「hibernation」、寒さを防ぐために睡眠状態に入る変温動物の冬眠「brumation」と単語を使い分けます。つまり、日本ではカメもクマも同じ冬眠と表現しますが、意味合いが違うわけです。
冬に眠るので冬眠というのは間違いではありませんが、カメやヘビの冬眠は変温動物なので代謝が落ちて動けなくなる、ほぼ昏睡状態のようなもので、暖かくなって活動再開できる日を安全な場所で待ちます。
それに対し、クマは代謝を多少落とすものの、冬眠中にメスは子どもを産みます。完全に寝ていたら出産も子育てもできません。冬眠には2種類あり、哺乳類と爬虫類では違いがあるわけです。
<プロフィール>
白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。