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2024/04/28

チャンスは数か月に一度だけ 海を照らす月の道 ムーンライトカフェで外国人観光客増加へ

■静岡県伊東市のIKO 海外観光客向け事業強化へ

他の地域と比べると出遅れたかもしれない。しかし、その遅れを取り戻せるだけのポテンシャルがある。静岡県伊東市の南部、伊豆高原エリアで活動する一般社団法人「伊豆高原観光オフィス(IKO)」が、インバウンド事業へのギアを上げた。ボッチャや枕投げといった伊東市に根付く文化に加えて、「ムーンライトカフェ」は強力なコンテンツになる予感がある。

 

【実際の動画】1月に開催された「ムーンライトカフェ」 非日常の時間と空間

 

首都圏から車で2時間半ほどの距離にあり、自然豊かな伊豆高原は関東からの観光客が占める割合が高い。さらに、犬と一緒に利用できる飲食店や宿泊施設が多いことから、犬を連れた観光客にも人気となっている。

 

大室山や城ヶ崎海岸など、伊東市は観光資源に恵まれている。ただ、国内の観光客と比べて外国人の伸びは鈍い。他の地域と比較して、インバウンド需要を取り込む事業を強化してこなかったという。

 

一方、伊東市を訪れて魅力を知った外国人からは「PRしないのはもったいない」という声が上がっていた。特に大室山はアジアを中心に話題となり、中国版Instagramとも呼ばれる「RED(小紅書)」では大室山が日本の観光地で最上位に表示されるほどだった。実際に中国をはじめとする海外からの観光客も増加し、予約でいっぱいになる宿泊施設も出てきた。

イベントでは小室山の山頂をライトアップ

■山頂をリニューアル 小室山に絶景望むカフェ

伊豆高原観光オフィスでは、ここ数年、外国人も楽しめるコンテンツに本腰を入れている。専務理事を務める利岡正基さんが語る。

 

「伊東市内にある団体や組織はインバウンドに対して温度差があります。私たちは今動かないと手遅れになってしまう危機感を抱いています。外国人観光客から注目される追い風も吹く中、何も行動しない選択肢はありません。国内の観光客だけでは頭打ちですから」

 

インバウンド事業として、伊豆高原観光オフィスが地域色を出す取り組みの1つが「ムーンライトカフェ」だ。大室山ほど知られていないが、伊豆高原には小室山もある。小室山は2021年に山頂をリニューアルし、新たな観光スポットになっている。

 

山頂からは伊東市や熱海市、さらに湯河原や小田原も一望できる。その先には湘南や房総半島の景色が広がり、天候に恵まれれば東京スカイツリーも見える。山頂に店を構える「Café 321」では、コーヒーやビール片手に絶景を存分に満喫できる。

普段は夕方までのカフェを夜も営業

■条件そろう数か月に1回 月が海を照らす「ムーンロード」

伊豆高原観光オフィスは今年1月28日、1日限定で普段は夕方に閉店するCafé 321を夜に営業し、月を楽しむイベント「ムーンライトカフェ」を開催した。小室山は夜景の美しさに加えて、月が海面を照らして道をつくる幻想的な「ムーンロード」を見ることができる。

 

ムーンロードができるのは満月の前後3日ほど。東側に海や湖などの水面があり、月に雲がかからない限られた条件でのみ、わずか数時間だけ目にできる景色。ベストなタイミングは数か月に1回くらいしかないという。この特別な時間は、日本を旅行した外国人に特別な記憶として刻まれる。

 

ただ、天候に左右されるイベントだけに、月に頼らない数々の仕掛けも用意した。カフェをライトアップし、雰囲気に合った音楽で空間を演出。地元を良く知るガイドが伊豆高原の自然、月や星について語る時間も設けた。参加した外国人からは好評だったという。今年度も秋ごろにムーンライトカフェの開催を検討している。

 

夜のイベントは、観光客の滞在時間を伸ばしたり、宿泊客を増やしたりする狙いがある。小室山は周辺に大型ホテルがあり、伊東の市街地からも車で15分ほどと近い。市街地の宿泊施設の多くはマイクロバスを所有しているため、連携すれば観光客を集めるキラーコンテンツになる可能性を秘めている。

 

ムーンライトカフェはイベントの広がりも感じさせる。アートやヨガ、著名人を招いたトークショーなど、月夜と相性の良いイベントは多岐に渡る。利岡さんは「小室山を訪れた人たちが夜も楽しめる場所をつくって、宿泊する流れをつくりたいです。インバウンドはもちろん、国内の観光客にも来ていただける内容にしていきたいと考えています」とビジョンを描く。

枕投げやボッチャでも知られている伊東市

■枕投げや温泉ボッチャ 伊東市独自のコンテンツ発信

伊豆高原観光オフィスでは他にも、枕投げや温泉ボッチャもインバウンド事業のコンテンツとして可能性を探っている。伊東市発祥の枕投げは毎年、市内で全国大会が開催されていて、近年は日本に住む外国人も参加している。

 

ただ、枕投げを目当てに外国人観光客が伊東に来たり、競技を海外に普及させたりするのは簡単ではない。そこで、伊東市で地元の人や市外の人をターゲットにした枕投げの大会を定期的に開催し、外国人観光客も気軽に参加できる形をイメージしている。

 

ボッチャは2021年に開催された東京パラリンピックの金メダリスト・杉村英孝選手が伊東市出身とあって、地元で親しまれている。伊豆高原観光オフィスでは、市内の宿泊施設にボッチャの道具を無料で貸し出す「温泉ボッチャ」に取り組んだ。興味を示す観光客は一定数いたが、道具を置くだけでは反応が薄い課題が見えたという。利岡さんは「進行役をつけて場を回したり、地元の人と交流する機会にしたりするなど、プラスアルファの要素が必要だと感じています」と語った。

 

まだクリアすべき課題はあるが、枕投げや温泉ボッチャは伊東市ならではのコンテンツと言える。数か月に一度の特別な時間と空間に浸る「ムーンライトカフェ」は、外国人観光客を惹きつけるコンテンツして形が見えてきた。伊東市がインバウンド事業で成功する道は開かれている。

 

(間 淳/Jun Aida

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