2024/10/24
「あなた1人ではない」 リトルベビーと母親に届けたい想い 静岡発で広がる支援の輪
■11月17日は世界早産児デー ポコアポコが県庁で展示会
1人で悩んでいるお母さんに届いてほしい――。リトルベビーと母親をサポートする静岡市のボランティア団体「ポコアポコ」が、11月17日の世界早産児デーに合わせて静岡県庁で展示会を開催している。積み重ねてきた地道な活動が少しずつ社会に広がり、国や行政も動かしている。【全2回の前編】
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苦労の先にたどり着いた喜び。仲間がいる安心感。サポートしてくれた人への感謝。心から溢れ出るメッセージが並ぶ。世界早産児デーのシンボルカラーとなっている紫色を基調にした展示スペースは、ポコアポコのメンバーが手作りした。
ポコアポコは小さく生まれた赤ちゃん「リトルベビー」とリトルベビーを育てる母親を支援している。県庁別館21階の富士山展望ロビーで展示会を開くのは昨年に続いて2回目。ポコアポコの代表を務める小林さとみさんは、こう話す。
「展示を一番見てほしいのはリトルベビーを産んだママたちです。私たちも同じような思いをしているし、リトルベビーの活動があると知ってほしいです。あなたは1人ではないし、今は大変かもしれないけど何年か経ったら希望を持てると伝えたいです」
■苦労も思い出に 母親が描くリトルベビーの成長
リトルベビーを出産した母親による展示には、写真とともに我が子の成長が描かれている。母親たちには振り返ると胸が苦しくなる記憶もある。だが、今は全てがかけがえのない思い出になっている。
「心の準備のないままの出産で小さく生まれた娘の姿を見るのは少し怖かったです。段々増えていくミルクの量や体重、小さなことに喜びを感じることができました」
「きょう出産しますと言われた時は涙が止まらず、それから毎日、保育器の中にいる我が子を見る度に申し訳ない気持ちと元気に育ってくれるか不安でいっぱいでした。ミルクの量や酸素濃度など、スタッフの方々から教わったことを記録して、それを振り返る度に強く、大きくなっていることを実感していました」
「娘が体調を崩す度、自分を責めてしまうことがあります。でも、娘の笑顔を見ると、この子のお母さんになれてよかったと感じます。娘と一緒に焦らず、ゆっくり成長していきたいと思います」
「子どもを授かったら十月十日で生まれてくるのが普通だと思っていました。小さな赤ちゃんの親になり、出産は全てが当たり前じゃない、色んな世界があって色んな方がいる。私の考え方や世界を広げてくれました」
■1人で悩む母親へ リトルベビーを育てる先輩からメッセージ
それぞれの展示に1つとして同じ物語はない。ただ、共通点がある。生まれてきた我が子への感謝。そして、リトルベビーを育てる母親の先輩として、今まさに悩んでいる人たちへのメッセージもつづられている。
「不安なことがたくさんあると思います。だけど、喜びも感じられます。そして、勇気を持って周りのママさんに声をかけてみてください。気持ちを共有できて楽になるかもしれません」
「色んな制約がある中でも、お母さんやお父さんがかけてきた言葉や肌の温もりは必ずお子さんに届いています。色んなことに神経をとがらせ、休まらない日々かと思いますが、どうぞご自愛ください」
今年の展示では新たに、クマのぬいぐるみも登場した。ぬいぐるみの大きさは身長29センチ、体重466グラム。実は、この大きさは小林さんが22年前に出産した当時の娘さんと同じ。北海道で活動するリトルベビーのサークルのメンバーがつくってくれたという。ぬいぐるみを手の上に乗せることで、実際のリトルベビーを想像できる。
■「違う景色が見えてきた」 リトルベビーの認知や理解広がる
2007年にポコアポコの代表に就いた小林さんはリトルベビーの認知や理解を広げるため、地道に活動を続けてきた。その輪は全国へ広がり、国も動かしている。特に、この1年は大きな変化が生まれた。小林さんが語る。
「昨年度とは少し違う景色が見えてきました。リトルベビーという言葉が広がってきているかなと感じています。こうなったらいいなと思っていることが、どんどん実現しています」
例えば、ポコアポコが中心になってつくった「リトルベビーハンドブック」は46都道府県まで普及した。リトルベビーハンドブックは小さな赤ちゃんを育てる母親に向けてつくった冊子で、母子手帳の代わりに使われている。母子手帳はリトルベビーの事情が反映されていない部分があり、母親たちが傷つくケースが少なくないという。
昨年11月に開催したセミナーをきっかけに、リトルベビーサークルの全国ネットワークもできた。40道府県のサークルが加盟し、国に対して当事者だからこその提言や要望をしている。小林さんは、この組織の代表を務めている。
■こども家庭庁が事務連絡を発出 低出生体重児を支援へ
こうした動きに押されるように、国もリトルベビーへの支援を始めた。今年9月末、こども家庭庁から「低出生体重児に関する支援や制度等について」の事務連絡が発出された。小林さんは、この発出には主に2つの意義があると説明する。
1つ目は「低出生体重児向けの手帳の作成の補助」。つまり、リトルベビーハンドブックの必要性を認め、改定や増刷の際には国庫で補助することを意味する。
2つ目は「低出生体重児を支援するための専門職への研修費用の補助」。保健師や看護師らを対象に設立した協議会が研修を行う際は、国庫でサポートする。小林さんは、この中にあった文章に胸が熱くなったという。
「低出生体重児の発育発達の特徴や母親の心理などを含む内容が入っていました。お母さんの気持ちに寄り添う言葉が書かれていることに感激しました」
3つ目は「就学時の対応」。学校教育法には「病弱、発育不完全やその他やむを得ない事由のため就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村教育委員会は就学義務を猶予または免除することができる」と規定されている。これを踏まえ、市町村の教育委員会には保護者が抱く就学への不安を解消する対応を求めた。
国から発出された事務連絡は都道府県に伝えられ、そこから市区町村へと広がる。ただ、メールで内容を送信するだけで済ませてしまえば、他の情報に埋もれてしまう可能性がある。仕組みづくりだけで終わり、リトルベビーの当事者に支援が届かなければ何の意味もない。
■経験者の声を発信 リトルベビーの母親を救うために
小林さんの娘は成人し、現在は社会人になっている。それでも、リトルベビーの活動を続けているのは当事者の声や経験が、今、1人で苦しんでいる母親たちの力になると信じているからだ。
「他のお母さんたちには自分が体験した苦しさや孤独を感じてほしくないんです。それは、リトルベビーを育ててサークル活動をしている全ての人たちに共通していると思います。リトルベビーを含めて少数派で困っている人たちに支援が届く社会に変わっていってほしいです」
想いを同じにする母親たちの輪が広がってリトルベビーハンドブックは“全国制覇”目前に迫り、サークルの全国ネットワークもできた。こども家庭庁もサポートへ乗り出した。リトルベビーの環境には途絶えることのない継続的なサポートが必要で、世界早産児デーや今回の展示は1つのきっかけに過ぎない。小林さんが訴えかける。
「リトルベビーを育てるお母さんや医療関係者にとっては、365日が早産児デーです。そして、リトルベビーを出産したばかりで悩んでいるお母さんに伝えたいです、あなただけではないと。仲間はたくさんいます」
ポコアポコの展示会は静岡県庁別館21階の富士山展望ロビーで11月1日まで開催されている。時間は平日が午前8時半から午後6時、土日祝日は午前10時から午後6時までとなっている。
(間 淳/Jun Aida)