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2022/10/14

静岡おでんの名店に大根がない深いワケ 売上よりも秘伝の出汁を守る矜持

大根が入っていない「大やきいも」の静岡おでん

■明治時代に創業「大やきいも」 焼きいもと静岡おでんの老舗

静岡市の中心市街地からも近い、駿府城公園そばの長谷通りに、創業から110年以上経つ老舗がある。「焼きいも」と「静岡おでん」の名店だ。週末には静岡県内外から観光客が、伝統の味を求めて訪れている。おでんの鍋やメニューを見た来客が一番驚くは「大根がないこと」。そこには、引き継がれてきた味を守り抜くための理由があった。

 

店名にもなっている「焼きいも」と双璧となっているのが、「静岡おでん」。冬の食べ物という印象の強いおでんだが、静岡市では年中提供する店が少なくない。

 

醬油をベースにした黒っぽい出汁で具材を煮込み、だし粉と呼ばれるイワシやカツオの削りと青のりをかけて食べる。かつては駄菓子屋に置かれているのが、静岡では一般的だった。

 

明治時代に創業した「大やきいも」も、長年継ぎ足した「秘伝の出汁」で煮込んだおでんを並べている。来店客を驚かせるのが、おでんの“主役”とも言える大根がメニューにないこと。決して店の好みや品切れではなく、伝統の味を損なわない明確な理由がある。4代目の店主、中村修身さんが明かす。

 

「自分で出汁を出せる具材のみを使っています。大根は水を出すだけなので、出汁を薄めてしまい、おでんの味を落としてしまいます。大根を入れないことが、おでんをおいしくする個性です。代々続けていることです」

明治時代創業の老舗「大やきいも」

■出汁を薄めてしまう大根 具材は味が出る牛すじや練りもの

メニューにある牛すじや練りものは煮込むと、出汁に旨味を加える。一方、大根は出汁を吸い込む際に水分が出ていくため、出汁全体を薄めてしまうという。出汁が薄くなれば、おでん全体の味が落ちてしまう。

 

そこで、「大やきいも」では代々、大根をメニューに入れていないのだ。お客の要望を受けて、大根だけ別に煮込んで提供していた時期もあったが、中村さんは「大根のないおでんが店の伝統であり特徴」と元の形に戻した。

 

店では1年を通じて、おでんを提供している。わずか数日でも煮込むのやめれば、出汁の味は損なわれる。ガスを使って欠かさず火を入れる必要があるため、旅行のような長期で店を空ける選択肢などない。それでも、伝統の味を守るために手間も費用もかける。

 

原材料費の高騰をおでんの価格にそのまま反映させず、値上げを最小限に抑えているのも、店を長年愛してくれる人や遠方から訪れる人への思いがあるから。中村さんは「今の値段で提供するのは正直、かなり厳しい部分はあります。おでんは安く食べられるイメージがあるので、10円の値上げにもためらってしまいます。ただ、仕入れ値が高くなっている分、味を損なわないために、最小限の値上げが避けられないのは理解していただきたいと思っています」と話す。

 

来店客の中には、おでんのメニューに大根がなく、落胆する人もいるという。おでんの“主役”を具材に加えれば、一時的に売上やお客が増えるかもしれない。採算を取るには、原材料費の高騰を価格に転嫁すれば利益率は今より高くなる。

 

しかし、安易な道を選べば伝統が途絶えるリスクを伴う。「大根のないおでん」には、110年以上続く老舗の矜持がある。

 

(間 淳/Jun Aida

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