2022/10/15
考える力がある子どもほど意見を言えない可能性も 教育の専門家が指摘する大人の誤解
■保護者世代の社会と変化 「子どもがすぐに意見を言えないのは悪くない」
考える力がない。自分の意見がない。質問に対する答えに時間がかかる子どもたちを、大人は誤解している可能性がある。教育の専門家は「子どもたちは考えているからこそ、簡単に自分の意見を言えない場合があります」と指摘する。子どもたちを取り巻く環境や時代の変化を大人が理解する必要がある。
勉強に限らず、スポーツや音楽などの上達でも重要とされる「考える力」。知識や情報を自分なりに整理し、どうすれば学んだことを結果につなげられるか考えられる子どもは成長すると言われている。
子どもたちが頭を使っているか確かめるために、大人は質問して回答を求める。回答に時間がかかったり、自分の意見を言えなかったりすると、「考えていない」と判断しがちだ。ところが、大人が誤解している可能性があるという。静岡市で子どもの学習を支援する教室「まなびルーム ポラリス」を運営する臨床心理士の澳塩渚さんは、こう話す。
「子どもたちが自分の意見をすぐに言えないのは悪いことではありません。今の子どもたちは、たくさんの選択肢を与えられていて、様々な可能性を考えなければならない社会に生きています」
澳塩さんは、インターネットが生活の一部になっている今の子どもたちは、保護者の世代と大きく違った環境で生活していると指摘する。パソコンやスマートフォンで多種多様な情報に触れているため、判断したり意見を言ったりする前に熟慮せざるを得ない。
「今の子どもたちは、誰かを怒らせている人や、他人を傷つけている人をインターネットで日常的に見ています。人を傷つけない大切さを理解しています。そのため、自分の発言がマイナスの結果を生むかもしれないと慎重に考えるようになっています。自分の意見をはっきりと言えない、結論を出すのに時間がかかるのは考えていないのではなく、むしろ色んなことを考えている可能性があります」
■今の子どもたちは読解力が低下? 専門家は「そんなことない」
保護者の世代に比べて、子どもたちは判断材料や選択肢が多いという。澳塩さんは「インターネットが身近な分、正解や正義は1つではないと早い段階で気付いている子どもが多いです」と実感している。だからといって、生活に不可欠なインターネットを禁止にするのではなく、大人が自分たちの子どもの頃と環境や時代が変化していると認識する必要があると説く。
また、澳塩さんは時々耳にする「今の子どもたちは文章を読む力が落ちている」という意見に疑問を投げかける。子どもたちが熱中するゲームは、映像に動きがあり、次々と文字情報が流れていく。読解力がなければ、ゲームの楽しさを感じられない。
新聞、テレビ、ラジオが主流だった頃と違い、子どもたちはインターネット、ゲーム、動画配信サービスなどから情報を得ている。澳塩さんは「私たちが子どもの頃と情報を得る媒体が違います。世界が異なるので文章を読む力が落ちているように見えますが、そんなことはないと思います」と話す。
はっきり意見を言えないから考えていないわけではない。本を読むのが遅いから、読解力が衰えているとは限らない。環境や時代は変化している。自分の子どもの頃の経験や記憶に捉われ、目に見える姿だけで子どもを安易に判断する大人は本質を見失う恐れがある。
(間 淳/Jun Aida)