2022/10/24
「本を買う以上の価値」「世界が広がる」 静岡市の本屋店主が語るネット購入にはない魅力
■大型書店閉店→本屋開店 「ひばりブックス」の太田原由明さん
自宅に居てもパソコンやスマートフォンから、ほしいものを注文できる時代。本も例外ではない。それでも、インターネットからの注文と本屋での購入には違いがあるという。静岡市で「ひばりブックス」を経営する太田原由明さんは、本屋を「自分の世界が広がる場所」と表現する。
静岡市葵区鷹匠にある「ひばりブックス」は、本が並ぶ18坪ほどのスペースにカフェとギャラリーが併設されている小さな本屋だ。店内にある本は約1万冊。大型書店と比べると当然、数ではかなわない。
だが、店主の太田原さんは、来客が本を手に取る姿を思い浮かべながら、どんな本を仕入れるのか考える。そして、1冊1冊、思いを込めて店に並べている。
本を取り巻く環境が、ここ10年、20年で大きく変わったことは痛いほど分かっている。静岡市の中心部からは大型書店が次々になくなり、太田原さんが長年勤務していた戸田書店静岡本店も2020年7月に閉店した。
■世間で言われるほど活字離れは感じない、ただ……
インターネットの普及によって、書店の存続が難しい現状を目の当たりにしてきた。それでも、2020年9月に「ひばりブックス」をオープンしたのは、本屋には本を買う以上の価値や意義があると信じているからだ。
「スマホで見る情報を活字といっていいのか分かりませんが、活字離れと言われるほど、世の中の人が字を読まなくなったわけではないと思います。ただ、自分が知っているものにだけ触れ、居心地が良い世界にとどまっているという印象を受けます」
人生100年時代がうたわれ、平均寿命は延びている。そうは言っても、1日24時間、1年365日の限られた時間で、人が自分で経験できることは世界のごく一部でしかない。だが、本の世界に入り込むと、時や場所を超えた疑似体験ができる。
インターネットで本を購入する時、多くの人がすでに目当ての本を決めている。または、関心のあるキーワードを入力して検索する。一方、本屋には未知の世界に触れる機会がある。
■興味がある情報ばかり入ってくる世の中 本屋は「雑多」「世界が広がる」
購入しようとした本を手に取ってレジに向かう途中、偶然目に入った本の表紙に引き寄せられ、ページをめくる。これまで経験したことがない世界を知り、新しい世界へ足を踏み入れる好機になる。特別な目的なく本屋の棚を眺め、人生を左右する1冊に出会うチャンスもある。太田原さんは言う。
「本屋には色んなものが雑多に詰まっています。今は興味がある情報ばかりが入ってくる世の中になっていますが、本屋は自分の世界が広がる場所だと思います」
本屋で1時間過ごして購入した本も、スマホを操作して1分で購入した本も、見た目は変わらない。しかし、本との出会い方は人生を豊かにするきっかけになる。
(鈴木 梨沙/Risa Suzuki)