静岡聖光学院で開催された部活動サミットで講師を務めた為末大さん

■静岡市の聖光学院で「部活動サミット」　講師にメダリストの為末大氏

来年度から導入される部活動改革への関心が高まる中、静岡市の静岡聖光学院高で「全国短時間・主体性部活動サミット」が開催されている。全ての部活を最大1時間半、週3回に制限する聖光学院は、短い時間で最大限の成果を目指す県内外の中学や高校と部活動の在り方を議論。講師として招かれた世界選手権銅メダリストの元陸上選手・為末大さんは「時間が制限される良さは多い」と話し、自分を知る大切さを生徒たちに伝えた。

静岡市の聖光学院高で21、22日の2日間開催される「全国短時間・主体性部活動サミット」は、初日を迎えた。聖光学院を含めて短時間練習を推進する全国の中学や高校12校の生徒や顧問が集まり、効率的な活動方法を話し合っている。

聖光学院は中高一貫の私立で、開校した50年前から全ての部活を火、木、土曜の週3回、練習時間を1時間半としている。11月から1月の冬季期間は1時間に短縮される。

部活動サミット初日となった21日午前の部には、元陸上選手の為末大さんが招かれた。為末さんは2001年にカナダ・エドモントンで開催された世界選手権の400メートルハードルで日本新記録を更新し、銅メダルを獲得。世界選手権の短距離種目で日本人がメダルを手にしたのは初めてだった。

さらに、2005年のヘルシンキ大会でも銅メダルを獲得。五輪には2008年の北京大会まで3大会連続で出場している。2012年に現役を退いてからは、指導者やスポーツコメンテーター、執筆活動や会社経営など幅広く活躍している。

■短時間の練習で成果出すには「自分を知ること」

為末さんは「部活の本質や本当に大事な練習が見えてきます」と部活の時間が制限されることを歓迎した。その上で、限られた時間で最大限の成果を生むには「自分を知ること」が大切と訴えた。

為末さんは現役時代、最終的に練習時間を1時間半にしたという。年齢による体力的な衰えはあったが、それ以上にパフォーマンスを上げる方法を考える時間を大事にしていた。

「体を動かしていない時間に上手くなるヒントがあります。グラウンドにいる時間以外に自分を分析して、課題を明確にすると効果的な練習ができます。いかに練習時間を濃くするかが重要です」

部活動にも共通する部分があり、為末さんは自分を知る方法に「相手との比較」と「過去の自分との比較」を挙げた。相手チームの選手やチームメートと自分を比べて、自分の特徴を把握する。そして、特徴を生かした戦い方を練って精度を高めていけば、時間を有効的に活用できる。

為末さんはハードル選手としては、世界的に見て小柄だった。足が長い海外の選手と同じ歩幅で走れるように練習するのではなく、ハードルを飛ぶ技術を磨くことに特化した。

「自分を生かす、強みを生かす練習を心掛けていました。目的や課題に焦点を当てた練習をすると効果が上がります」

部活動サミットでは為末さんが生徒に考えを聞く場面も

■過去の自分と比較、短所を長所に捉える考え方が大切

課題を具体化するためには、過去の自分の分析も大切になるという。スタートが悪い、過度に緊張してしまうといった傾向が続いているのであれば、原因を掘り下げて練習で改善していく。ただ、為末さんは「実は短所と長所は分かれていないケースがあります。そこに早く気付いてほしいと思います」と力を込める。

例えば、神経質で普段と違うことが起きると不安になることを短所と感じている陸上選手がリレーのメンバーに入ると、短所は長所に変わるという。為末さんは「細かいことが気になる選手は、リレーメンバーと見て普段との違いに気付きます。そこでバトンの受け取り方を調整するというように、チームの力になれます」と話した。

為末さん自身も短所を特徴や長所と捉えて練習していた。現役時代は好不調の波が激しく、世界選手権で銅メダルを獲った直後に日本国内の大会で負けた経験があった。10本のレースの平均タイムを見ると、国内でも断トツではなかった。

為末さんは「調子のムラ」を「爆発力」と考えて、全ての大会で上位に入ることを追い求めず、「幅がある選手になろう」と発想を転換した。練習でも上手くいかない日を設けて波をつくり、調子が良い時に突出したタイムを出す意識を持った。

教員の働き方改革の一環で、中学と高校の部活動は来年度以降、地域に移行され、練習時間が短くなると予想される。批判的、悲観的な意見も出ているが、為末さんの経験や考え方には、限られた時間で成果を出すヒントがある。

（間　淳／Jun Aida）