2022/11/21
部活動改革のカギは「省く選択」と「振り返り」 陸上日本記録保持者が理想の練習提言
■元ハードル選手・為末大氏 静岡市の「部活動サミット」に参加
日本陸上界初の快挙を成し遂げた元選手は、「選ぶこと」と「振り返ること」をポイントに挙げた。男子400メートルハードル日本記録保持者で、短距離の日本人選手で初めて世界選手権でメダルを獲得した為末大さんが21日、静岡市で開催されている「部活動サミット」に参加した。来年度から導入される部活動改革で練習時間短縮が予想される中、やり方や考えた方次第で練習の成果は変わると訴えた。
静岡市の静岡聖光学院で2日間予定されている「部活動サミット」には、聖光学院を含めて全国各地から12の中学、高校の生徒や顧問が集まった。どの学校も効率的な練習で最大限の効果を出す部活を目指しており、他校の取り組みを参考にしたり、意見交換したりする場となった。
初日は世界選手権で銅メダルを2度獲得し、五輪にも3度出場した元陸上選手の為末大さんが講師に招かれた。為末さんは練習時間を制限することに肯定的で、効果的に練習するポイントに「選ぶこと」と「振り返ること」を挙げた。
練習時間が限られればメニューに優先順位をつけ、「選ぶこと」が必要になる。どのメニューを選ぶかが大事と思いがちだが、為末さんは生徒たちに、こう語りかけた。
「頭の中で考え方を逆にします。どの練習を省くのかを考えなければいけません」
■何を選ぶか=何を捨てるか 効果的な練習は「削るメニューの選択」
何を選ぶかは、何を捨てるかに通ずる。為末さんは生徒たちをグループに分け、1週間で3時間しか部活の時間がなかったら、どんな練習を削り、何を残すかを話し合う時間をつくった。
生徒からは、削る練習メニューに個のスキルを強化する内容が挙がった。バスケット部の生徒は「シュートやドリブルは部活以外の時間に個人で練習して、部活では練習したシュートが効果的なのかを確認します。また、1人ではできないフォーメンションの練習をしたいと思います」と発言した。
為末さんは生徒の意見に賛同。部活に時間の制限がない場合でも、「もし練習時間が週に3時間だったら」、「もし、指導者が来るのは週に1回だったら」というように、仮の設定をすると課題が明確になり、練習の効果が上がると伝えた。
短時間で成果を出すために、もう1つ、為末さんが重要視するのが「振り返ること」だった。自身が現役引退後、五輪に出場した選手10人以上に話を聞いたところ共通点があったという。
「いつか五輪に出たいという大きな目標を掲げるより、練習前の目的と練習後の振り返りが明確でした」
■「試合は物語」 失敗の原因究明は時間をさかのぼる
自身も現役時代、課題を改善する際に原因や練習法を具体的にするよう心掛けていた。初めての五輪出場となった2000年のシドニー大会で、為末さんは9台目のハードルで転倒した。
失敗を繰り返さないために映像を見直すと、9台目のハードルを飛ぶ時に距離が近すぎたという。さらに、映像を細かく見ると、飛び越えた8台目のハードルも距離が近く、1台目を飛ぶところから普段の距離感とずれが生じていた。
なぜ、思い通りのレースができなかったのか。為末さんは「初めての五輪に緊張して、風を計算していませんでした」と振り返る。当時、選手には向かい風が吹いていた。同じように走っても、風が強ければ、わずかに歩幅が違ってくる。その違いが積み重なれば、やがて大きな差となる。9台目のハードルで形に表れたのだ。
シドニー五輪で失敗した原因を分析した為末さんは、出場するレースを日本から海外へと移した。その理由を説明する。
「異なる条件で経験を積んで、慣れようと考えました。『緊張して失敗したから緊張しないようにしよう』で終わると、どんな練習をすればいいのか分かりません。原因は時間をさかのぼることで見えてきます。試合は物語だと思っています」
試合は物語――ハードルで転倒する失敗は、ハードルを飛ぶ動きに問題の根本があるわけではない。歩幅のずれによる飛ぶ前の距離感、さらに8台目から1台目までのハードル、スタート前の風の計算と1つの物語になっている。場合によっては、レースのミスがレース前日の準備や調整にあるかもしれない。
問題の解決には、振り返りが欠かせない。日々の練習で課題を設定し、練習後に振り返る。その繰り返しが効果的な練習につながる。来年度から導入される部活動改革では、練習時間が短くなると予想される。為末さんが提案する「選ぶこと」と「振り返ること」への意識は、費やす時間が同じでも効果は変わるはずだ。
(間 淳/Jun Aida)