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2022/12/08

全国大会常連のラグビー部 モチベーション高める「ホース型」の褒め方と叱る基準

花園に7度出場している静岡聖光学院ラグビー部

■週3回の活動で全国大会7度出場 花園でも勝利

静岡県屈指のラグビー強豪校、静岡聖光学院高は部活が週3日に限られている。しかも、練習時間は1時間半と短い。他校より圧倒的に少ない活動時間で成果を出すために重要になるのが、選手のモチベーション。指導者は選手の気持ちを高める接し方や、控え選手もチームに入り込める工夫を心掛けている。

 

同じ練習メニューでも選手のモチベーションが違えば、効果に差が出る。中高一貫の静岡聖光学院は中学も高校も、全ての部活が火、木、土の週3日。時間は1時間半で、11月から2月までの冬季期間は1時間に短縮される。

 

週3日制は部活に比重を置きすぎず、勉強や課外活動の時間をつくることが目的。それぞれの部活は効率的、効果的な練習方法を考える。同じ練習時間で最大限の効果を得るには、選手のモチベーションが大切な要素となる。

 

ラグビー部のGMで部活動統括を務める奥村祥平さんは、選手のモチベーションの波をいかに抑えるかが大事になると説く。静岡聖光学院に赴任して16年目となるが、当時ラグビー部の監督をしていた星野明宏さん(前校長、現:東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー)から指導の基礎を学んだ。

 

ラグビー部の場合、高い志で新チームを始動させ、部活に慣れた春先から夏場にかけて気持ちが下がりやすい。そして、花園をかけた静岡大会佳境の11月に熱が最も高まる。今年は決勝で敗れたものの、これまで花園に7度立って白星も挙げている。

 

■少人数のグループでミーティング 控え選手にも役割や責任感

奥村さんは「波をできるだけ小さくして、モチベーションを下げないように心掛けています」と話す。選手主体のミーティングも手段の1つ。ラグビー部は昼休みに集まって、その日の練習テーマや相手チームの分析、チームの課題を話し合う。

 

プロジェクトごとに6つのグループがあり、30人ほどの部員がいずれかのグループに属する。どこに入るかは自由。個々に興味があるグループを選び、練習や試合のビデオを見ながら改善すべき点を話し合う。少人数のグループに分かれるため、どの選手にも役割や発言機会があり、控え選手にも責任感が芽生えるという。

 

選手への声のかけ方も重要だ。指導者の言葉で、選手のやる気スイッチは入ったり切れたりする。奥村さんが避けるのは、選手に感情をぶつけて怒ること。怒ると叱るは異なると考えている。

 

「怒るのは自分の感情をぶつけるだけで、選手には怒られた記憶しか残りません。感情を抜きにしてフラットな目線で、どこがおかしいかを指摘する方が選手に伝わると思います。これが叱るということで、正しい方向に軌道修正するイメージです」

昨年は監督としてチームを花園に導いた奥村さん

■叱る基準は「振り返りが利かないミス」 褒め方は「ホース型」

奥村さんが選手を厳しく叱るのは、人としての振る舞いやチームのルールから逸脱した時や、振り返りが利かないミスをした時。振り返ることができるミスは修正すれば成長につながる一方、ボーとしてミスをするような振り返れないケースは「怠慢が原因」と指摘する。

 

「誰でも失敗はありますし、間違った行動をすることもあります。その後に、しっかり振り返って、どうする方が良かったのか言語化することが大事だと考えています」

 

叱る基準に続いては、選手の褒め方。奥村さんは「シャワー型ではなく、ホース型」と表現する。選手1人1人を細かく観察して、どんなプレーが好きなのかを把握する。そして、直接話をしたり、書面やLineを使ったりして、シャワーのようにチーム全体ではなく、ホースで1点集中するように個々の選手にアプローチする。

 

「パスが好きな選手には、上手くいったパスに関するプレーを褒めます。上手くいかなかった部分は指導者が言わなくても、本人が分かっているはずです。もし、課題のタックルを指摘するのであれば、パスについて具体的に褒めてから、タックルの話をした方が生徒に響くと感じています」

 

選手は指導者からの言葉で、自分のプレーを見ているのか、自分の特徴を把握しているのかを判断する。評価されたい動きを褒められれば、指導者への信頼感は自然と増す。

 

■選手を成長させるインプットとアウトプットの比率と目標設定

また、奥村さんは「インプットとアウトプットの比率」を意識して、選手と接している。一方的に話をしても、選手は退屈に感じてしまう。意見を求めたり、聞いた話をまとめたりする時間をつくる。比率は時期によって変化するが、大会が近い時は「自身の話は2~3割、選手が7~8割」を理想にしている。

 

目標設定にも注意が必要で、高すぎる目標は逆効果になると考えている。ラグビー部では「高校日本一」は掲げていない。「全国大会で2回戦突破」といった「届きそうで届かない」目標を設定する。

 

奥村さんは「スキルの向上はモチベーションと関係します。実現性の低い目標よりも、工夫や努力をすれば達成できそうな目標設定がモチベーションを上げる効果があると思っています」と説明した。さらに選手には、もっと大切にしてほしい目標があるという。

 

「チームとして1年間の最終的な目標も大事ですが、それよりも生徒たちが5年後10年後どうなっているのか、どうなりたいのか、人生の大目標を描く方が重要です。高校と人生、2つのゴールを定めてほしいですね」

 

長期的に見える1年間の目標は、長い人生を考えれば短期的。選手のモチベーションを上げる指導は、ラグビーの技術向上や勝利が最終ゴールではない。その先の未来へとつながっている。

 

(間 淳/Jun Aida

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