2022/12/11
茶畑がないのに、なぜ「茶町」? 静岡市中心部で茶どころを支える「ブレンドのまち」
■静岡市葵区にある「茶町」 徳川家康の区割りが起源
古くからお茶の産地として有名なまちは全国に多数あるが、「茶町」の名前が残る場所は少ない。その1つが、静岡市葵区にある。静岡駅から徒歩15分と中心街に近く、茶畑はない。お茶のまちとして発展してきた理由とは。
静岡市葵区の茶町へ近づくと、お茶の香ばしい香りが漂ってくる。全国には奈良県や鳥取県、静岡県藤枝市など、「茶町」の名前が残る土地がわずかにあるが、付近に茶畑がないにもかかわらず「茶町」の地名が残っているのは珍しい。
静岡市葵区茶町の歴史は江戸初期にさかのぼる。茶町を含む静岡市中心街は、かつて徳川家康が築いた駿府城の城下町だった。お茶を愛した徳川家康による区割りで「駿府96カ町の都市」が形成され、お茶の商人が集められたエリアが「茶町」となった。
お茶の町として発展したのは明治時代。静岡県を含む国内のお茶は主に横浜港から輸出されていたが、明治39年に清水港から輸出ができるようになった。これに伴い、静岡県内ではお茶の生産が盛んになり、茶町には製茶工場が一気に増えた。
戦後は茶町周辺にお茶を取引する静岡茶市場が開設され、製茶問屋や問屋と生産者を仲介する才取など、茶業に関わる業者や人が集まる場所として栄えた。現在は廃止されているが、清水港までお茶を運ぶ電車も走っていた。
■茶町界隈には100軒の製茶問屋 山と里2種類のお茶が集積
茶町界隈には今も約100軒の製茶問屋が並んでいる。各地で生産されたお茶を仕上げている。茶業の集積所として発展した理由は「立地」。お茶の産地として知られる静岡県には、山のお茶と里のお茶、2種類がある。
標高が高く日照時間が短い山のお茶は苦みや渋みが少ない。香りが良く、蒸し時間が短い浅蒸しに適している。一方、里のお茶はカテキン成分が多く苦みが強い。深蒸しでコクのある味を楽しめる。
香りと味、それぞれに特徴がある山のお茶と里のお茶の良さをブレンドするのが製茶の役割。山と里、2種類のお茶を集める場所として適していたのが、「茶町」だった。好みに合わせて香りや味を調整したお茶を届ける「ブレンドの町」。「茶町」に近づくとお茶の香りが漂うのは、製茶の工程で茶葉の水分を飛ばして香りを出す「火入れ」によるものだ。
茶町には製茶問屋のほかにも、お茶と相性抜群の和菓子や、お茶を使ったスイーツを販売する店も並んでいる。また、茶町の歩みを支えてきた老舗の寿司店や定食屋など名店も多い。お茶の香りを楽しみながら、散策する楽しさがある。
(鈴木 梨沙/Risa Suzuki)