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2023/01/19

LGBTQ「タブー視しないで」 トランスジェンダーのタレント静岡市の中学で特別授業

清水第四中学校の全校道徳で講師を務めた西原さん

■タレントの西原さつきさん 清水第四中学校で全校道徳の講師

自分らしく生きてほしい――。50分間の特別授業にメッセージを込めた。トランスジェンダーを公表しているタレントの西原さつきさんが、静岡市の清水第四中学校で講演。自身の経験を交えて、LGBTQと表現されるセクシャルマイノリティ(性的少数者)への正しい理解やタブー視しない大切さを語った。

 

全校道徳の授業で、特別講師として清水第四中学校に招かれた西原さん。感染が広がっている新型コロナウイルスを考慮してオンラインとなった別室から、パソコン画面に向かって丸みのある声で語りかける。

 

「多様性や自分らしさが取り上げらえる機会は増えましたが、自分らしさといきなり言われても分かりません。一緒に考えていきたいと思います」

 

多様性、性的少数者、自分らしさ。授業は大人でも難しい顔になりかねないテーマだった。だが、西原さんの明るさとシンプルなメッセージが生徒や先生を引き込んでいく。

 

授業は、性的指向や性自認を意味する英語の頭文字を取った「LGBTQ」の説明から始まった。「L」は女性が女性を好きになるレズビアン、「G」は男性が男性好きになるゲイ、「B」は同姓も異性も恋愛対象となるバイセクシャル、「T」は体と心の性別が異なるトランスジェンダー、「Q」は自身の性自認や性的指向が定まっていない、または意図的に定めていないクエスチョニングを意味する。

俳優、ボイストレーナー、脚本監修など幅広く活動する西原さん(本人提供)

■10人に1人がLGBTQ 言葉の意味以上に「相手知ること大事に」

社会の関心が高まったこともあり、「LGBTQ」という言葉を耳にする機会は増えた。一方で、過度に気を使ったり、話題を避けたりする傾向がある。LGBTQの当事者と該当しない人との間には壁があると、西原さん自身も感じている。ただ、言葉の使い方以上に大切なことがあると強調する。

 

「私も当事者の1人ですが、どんな言葉が傷つけてしまうのか接し方に困ることがあると思います。でも、言葉の細かいニュアンスよりも、もっと手前にある『相手を知ること』を大事にしてほしいです。それから、タブー視しないことも環境づくりにつながります」

 

たとえ自分が当事者ではなかったとしても、性的少数者は遠い世界の話ではない。中学生にも身近なテーマだと知ってもらうために、西原さんはクイズを出した。

 

「LGBTQの人は全体の何%くらいいるでしょうか?」

 

生徒たちに4つの選択肢を示す。「1万人に1人」、「1000人に1人」、「100人に1人」、「10人に1人」。オンラインの画面を通じて、正解だと思う選択肢で拍手を求めた。「1000人に1人」で小さな拍手が起き、「100人に1人」と「10人に1人」で同じくらいの大きさの拍手が響く。

 

正解は「10人に1人」。スマートフォンで回答を求めるなど、他人に見られない形式によるアンケートで、8.9%が自身はLGBTQと答えているという。これは、AB型や左利きの割合とほぼ同じ。決して特殊ではないのだ。

 

■16歳で女性ホルモン剤 「誰かに話せていたら……」

西原さんは初めて数字を知った時に「大げさなのでは」と疑問を持ったが、今は実態と離れていないと感じている。中学や高校などで講演後、自身のSNSへの連絡を募ると、10人に1人くらいの割合で悩み相談が来るという。

 

「友達には言えないが同姓が好き」、「女子として生まれたがスカートをはきたくない」といった当事者に加えて、「同姓の女友達に告白されて、どうすればよいか分からない」などの声も届く。

 

男性として生まれた西原さんが、自身の性別に違和感を抱いたのは小学校に入った頃だった。当時は男女別に出席番号が分かれており、男子のグループに入った時に居心地の悪さを感じた。その後、恋愛対象が男子だったことから、男性の同性愛者かもしれないと認識するようになった。

 

トランスジェンダーだと分かったのは、中学生の時に見たドラマ「3年B組金八先生」がきっかけだった。体と心の性別が一致しない性同一性障害の生徒を描く場面に、自分の姿が重なった。

 

女性として生きようと決意したのは16歳の時。女性ホルモン剤の使用を始めた。中学生から高校生にかけての時期が最も苦しく、悩みが尽きなかったと振り返る。

 

「中学生の時は自分なりに最大限男の子として頑張っていました。誰かに話せていたら、もっと楽しく学生生活が送れていたと思います」

全校道徳の講師として清水第四中学校に招かれた西原さん

■26歳で性別適合手術 体が変化して性格も明るく前向きに

男子の“当たり前”を強制され、髪の毛は短く、学生服も選択の余地がなかった。着替えやトイレも苦痛だったが、何よりも辛かったのは誰にも相談できない孤独感だった。

 

西原さんが救いを求めたのはインターネットの世界だった。流行していた掲示板や普及し始めたSNSで、自分と同じように悩む人やアドバイスしてくれる人に出会った。

 

「顔は分からなくても自分と同じ考え方の人を見つけると、1人じゃないと安心しました。同じ考えを持っている人が世界のどこかにいるというのが、心のよりどころでした」

 

1人ではないと実感できる安心が救いになる。悩み相談できる存在が、どれほど救いになるのか。経験から実感している西原さんが中学や高校を中心に講演活動する理由は、そこにある。

 

「女子ホルモンを始めるのは人生で一番大きな決断でした。1人で悩み抜いて決めましたが、両親や友人に相談できていたら、精神的な部分は全然違っていたはずです。女性の体になる代わりに、生殖機能がなくなってしまうので、ものすごく悩みました」

 

16歳で女性としての人生を選び、26歳の時にタイで性別適合手術を受けた。戸籍も変えて、「24時間、女性でいられる」生活を手にした。中学、高校時代は口数が少なく暗かった性格は、体が変化するにつれ明るく前向きになった。今では俳優、ボイストレーナー、脚本監修など多岐に渡って活躍する。

 

■「性別変える経験は楽しい」、「自分らしく生きる大切さ知って」

周囲からは「苦労しましたね」、「辛かったですね」と声をかけられる時がある。しかし、西原さんは「大変な時はありましたが、性別を変える経験は思ったよりも楽しくて新しい世界が広がりました。自分がやりたかったことができるようになって楽しいです」と笑う。そして、トランスジェンダーの当事者として自身の経験を伝える意味を、こう語る。

 

「性的少数者への理解以上に、本当に自分が好きなものは何なのか、自分らしく生きる大切さを知ってほしいんです。人の目を気にせず自由にいられる居場所づくりをサポートできたらと思っています」

 

最近でこそ「多様性」という言葉が強調されるようになっているが、「みんな同じ」を模範とする学校や社会の考え方は根強い。西原さんは「良い意味で人を気にし過ぎずに生きる。無理をしない生き方が自分らしさにつながると思います。」と生徒にアドバイスを送る。そして、こう続けた。

 

「私は自分の過去が気にならないくらい今の生活が楽しくて、これから先も楽しみです。人生は長い時間をかけて自分らしさを見つけていく旅。物語の主人公を務める皆さんが、物語のタイトルを探していってください」

 

見た目も好みも考え方も、誰一人として同じではない。違いがあるから可能性が広がり、社会は豊かになる。性的少数者という言葉自体が、本来は意味をなさない。そんな当たり前に気付かせ、忘れさせないように、西原さんは自分らしく生きる姿を発信している。

 

(間 淳/Jun Aida

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