2023/01/26
「人は誰もが違う」講師は障がい者や性的少数者 静岡市の中学校で多様性学ぶ3年計画
■静岡市の清水第四中学 当事者の声を聞く特別授業
当事者の声に勝るメッセージはない。静岡市にある清水第四中学校が、トランスジェンダーを公表しているタレントの西原さつきさんを特別授業の講師に招いた。「みんなちがってみんないい」と題した多様性を学ぶ3年計画の一環で、未来を担う生徒たちに社会を変えてほしい願いが込められている。
長年社会に浸透してきた考え方は短期間で劇的には変わらない。しかし、確実に変化は生まれている。多様性は、その1つだ。国籍や性別、性的指向や障がいの有無など、様々な人々の集まりを指す言葉だが、ここ数年、重要性が声高に叫ばれている。
誰一人として同じ人間はいない。全ての人に違いがある以上、特定の差異だけを取り上げて、マイノリティ(少数派)と位置付けるのは何の意味もない。個々の違いを尊重する多様性は本来、当たり前のはずだが、実際はセクシャルマイノリティに代表されるように、当事者に不利益が生じている。
こうした現実に目を向け、多様性について積極的に取り組んでいるのが清水第四中学校だ。学校保健委員会と全校道徳を関連付け、「みんなちがってみんないい」をテーマに昨年度から3年計画を進めている。
昨年度は発達障害に焦点を当て、自助グループのメンバーや発達障害当事者演劇「わたし」を演じたSPAC(静岡県舞台芸術センター)の俳優・関根淳子さんを講師に招いた。
■今年度は「性の多様性」 タレント西原さつきさんに講師依頼
今年度は性の多様性を掲げ、俳優やボイストレーナーとして活動する西原さつきさんに全校道徳の講師を依頼した。トランスジェンダーの当事者である西原さんの実体験やメッセージは、想像以上に生徒の心に響いた。
新型コロナウイルス感染拡大のリスクを考慮して、今月実施した全校道徳はオンライン形式となったが、授業が終わると別室にいた西原さんのもとに次々と生徒が訪れた。「セクシャルマイノリティへの理解が深まりました」、「自分らしく生きる大切さを学びました」など、直接感想を伝えた。中には西原さんの手を握りながら涙ながらに話す生徒や、別れを惜しむように西原さんが乗った車が見えなくなるまで見送る生徒もいた。
今回の授業を企画した学校保健委員会は、健康や保健分野の知識を深めたり、課題を解決したりする取り組みを進める組織。活動内容は各学校の裁量に任されている。全校道徳と関連させて、この活動を清水第四中学校で担当している養護教諭の本間江理子さんは、多様性の学習に重点を置く理由を説明する。
「人は誰もが違います。多様性を理解すということは人権尊重につながります。互いの個性を認め合って、自分も相手も大切にするという多様性の理解や人権を重んじる意識が社会で薄れ、いじめや差別が後を絶たないと感じています」
■多様性の学習で「知らない」をなくす 言葉の重みを知る
本間さんは少数派に目を向けることは、日常を振り返る大きなきっかけになると考えている。特に大事にしているのが「言葉」。日常の何気ない一言が、少数派の人をはじめ、身近な人たちを傷つける可能性があると強調する。
「人を見下したり、からかったりするのは、『知らない』からです。知っていれば言動を意識できます。正しい知識を身に付ける、相手を知ることが大切だと思っています」
生徒たちに日頃から少数派や多様性について関心を持ってもらうため、司書に依頼して図書館に多様性を学ぶ本を20冊ほど入れてもらった。「生徒たちが世の中に出た時、社会の多様性や人権への意識が今以上に高く変わってほしい。教育には、その力があると思っています」と本間さん。多様性や人権を大事にする当たり前の社会実現へ、教育現場からうねりを起こす。
(間 淳/Jun Aida)