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2023/01/30

「賃上げで優秀な人材は引き止められない」春闘スタートに大手企業幹部の切実な本音

賃上げが焦点となっている2023年の春闘

■春闘スタート 焦点は「5%の賃上げ」

2023年の春闘が事実上スタートした。歯止めがかからない物価高騰を受けて連合側は5%程度の賃上げを要求し、経営側も前向きに検討する姿勢を示している。これまでは消極的だった経営側が近年、賃上げに踏み切る理由には「優秀な人材の引き留めや獲得」が挙げられているが、静岡県内の大手企業幹部は別の本音を語る。

 

経団連会長と連合会長による労使のトップ会談が1月23日に行われ、2023年の春闘が事実上スタートした。最大のテーマは「賃上げ」。食料品や電気など、生活に不可欠なあらゆる分野でモノやサービスの価格が高騰しているのに対し、労働者の給与が上昇していないとの声が大きくなっている。

 

連合が賃上げを強く要求するのは立場上、当然と言える。一方、企業側は原材料費の高騰や先行きが不透明な国際情勢など、賃上げをためらう不安要素が少なくない。それでも、連合が求める5%程度の賃上げを前向きに検討している大手企業は多い。

 

企業が賃上げに踏み切る主な理由には、「優秀な人材の引き留めや獲得」が挙げられている。これに対し、静岡県にある大手企業の幹部は「人材引き留めの意味合いはあるが、正確な表現ではない」と口を開く。

 

■賃上げで引き留められるのは「中の上の人材まで」

「社員を上の上から下の下まで9段階で分けた場合、賃上げで引き留められるのは中の上、せいぜい上の下までの人材です。本当に優秀な人材は5%、10%の給与アップで会社や仕事への考え方は変わりません」

 

この企業は給与の水準が高く、勤務時間など職場環境に大きな問題を感じていないという。それでも、ここ数年、離職率が高くなっている。しかも、会社の中心を担う人材として期待する30代から40代が多い。退職者は特に、転職よりも独立するケースが増えている。

 

「優秀な人材は会社で何を得られるのか、何を実現できるのかを働き続ける基準にしていると感じています。会社の力を借りずに起業するか、外資系のように成果主義で一気に給与を挙げている人が多いです。会社が人を切るのではなく、優秀な人材が会社を見切る時代になったのだと思います」

 

社員の9段階評価で「上の上」や「上の中」の人材を賃上げで引き留めるのは難しい。それでも、この幹部は「社員の給与を上げる意味はあります。賃上げには中の上クラスの社員が退社しないように引き留め、平均的な能力の社員のモチベーションを上げる効果がありますから」と語る。

 

■成果主義や給与以外の価値 優秀な人材確保に苦慮

ただ、賃上げが「時間稼ぎ」でしかないという不安もあるという。中・長期的なビジョンを考えれば、能力に応じた給与体系にしたり、給与以外の価値を生み出したり、優秀な人材が会社に残る仕組みが必要だと考えている。

 

「どの業界も優秀な人材が個の力で勝負する時代が来ていますし、企業は確保しようと必死です。今は賃上げへの関心が高まっていますが、次の議論は成果主義や社員個別の雇用契約に移っていくと予想しています。給与は仕事の対価なので、会社に利益を生み出さない社員まで定期昇給させるのは本来おかしな話ですから」

 

大手を中心に、過去にない賃上げを表明する企業が出てきている。その裏には人材確保への強い危機感があるかもしれない。

 

SHIZUOKA Life編集部)

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