2023/02/02
新商品採用10% いちご大福は”完成”に15年 1日限定販売でも妥協しない老舗和菓子店
■富士市の「田子の月」 年間約50種類の新商品発売
人気の定番商品があっても、新たな商品開発への歩みを止めることはない。静岡県富士市に本社を置く老舗和菓子店「田子の月」は、年間50種類ほどの新商品を発売している。提案が一発採用される確率は10%ほど。狭き門を通り抜けた商品が店頭に並んでいる。中には、商品化されても15年間、改良を続けて今の形にたどり着いた商品もある。
静岡県民であれば知らない人はいないくらい、「田子の月」は高い認知度を誇る。長年愛されている看板商品の「もなか」や、子どもにも人気の定番商品「富士山頂」を思い浮かべる人は多いが、季節限定や月替わり商品も充実している。
例えば田子の月を代表する「餅入りもなか」は、月替わりの商品が毎月15日のみ限定で販売されている。1月の「梅もなか」は白あんにフリーズドライとセミドライの梅を入れ、食感のアクセントを出した。2月の「チョコもなか」は、つぶあんとオレンジの二層にチョコ入りの餅を挟んでいる。
見た目も美しい上生菓子も毎月、新作が登場する。ふわふわの生地にチーズが入ったブッセ「もんぱり」は、イチゴ、リンゴ、お茶、ブルーベリーと季節に合わせた味を展開する。
■月2回の商品開発会議 提案の一発採用約10%
購入する側は新商品をワクワク待つ一方、開発側には生みの苦しみもある。田子の月では月に2回、商品開発会議を行っている。提案が全て会議の場で議論されるわけではなく、その前に商品開発室のふるいにかけられる。
商品開発室の部長を務める尾鷲和文さんは「会議に出す前に私が試作をチェックしています。提案が一発で商品化する確率は10%くらいです。もちろん、スタッフ間で意見が異なることもありますが、新しい商品を作り出すのは大きな楽しみの1つです」と話す。
年間50種類ほど販売されている新商品は、倍率10倍の狭き門を突破した“エリート”なのだ。ただ、商品化の決定はスタートでしかない。
味はもちろん、商品の日持ちや製造ラインの適性などベストな製法を模索していく。時には、販売前日まで調整するケースもあるという。
■2月4日から3日限定「練乳いちご大福」 改良重ねて15年
静岡エリアでは2月4日から3日間限定で販売される「練乳いちご大福」は、まさに苦労の結晶とも言える商品。今年で18年目を迎える人気商品だが、3年前にようやく今の味に定まった。販売当初は、練乳に対するあんこの割合が高かった。できるだけ練乳を増やしたいと考え、試作を繰り返してきた。
ただ、練乳だけにするとドロッとしてしまう。保形性と口どけの両立を試行錯誤し、今ではあんこを使わず、名前の通り練乳を全面に出す商品にたどり着いた。
これだけの苦労を重ねても、店頭に並べるのは3日間限定としている。他にも、年間で数日、1週間ほどしか販売しない商品が少なくない。採算を二の次にしているように映る方針。総務部長の望月洋平さんは、こう話す。
「お菓子を通じて季節を感じてもらい、おいしく食べられる瞬間に一番良い状態の商品を提供することを大切にしています。時期を限定した商品を毎年楽しみにしてくださるお客さまもいます。たとえ販売日が1日だけだったとしても、時間をかけて今よりもおいしくする方法を常に考えています」
1年の特別な日を演出する期間限定商品。店頭に並べるわずかな期間のためでも、長い月日をかけている。
(間 淳/Jun Aida)