2023/02/04
カプセルトイのアイデアは苦しみ9割、楽しみ1割 商品化判断するたった1つの質問
■静岡市のトイズキャビン 発想力の精巧さで唯一無二の商品
発想力が問われる業界では、どのようにアイデアを出し、商品化しているのか。カプセルトイを製造・販売している静岡市の「トイズキャビン」の社長・山西秀晃さんは「9割が苦しみ、1割の楽しみのために考え続けています」と話す。社内では山西さん主導の企画会議はなく、社員のアイデアを商品にするかどうかの判断に不可欠な質問があるという。
会社立ち上げから6年経ち、従業員は5人増えた。発案や発注、営業や財務管理など全てを1人でこなしていた起業当時の6年前とは役割が変わった。それでも、山西さんがアイデアを出す重圧と戦う日々は終わらない。
「ご飯を食べていても、寝転がっていても、常にぼんやりと考えています。アイデアを出すことから逃げられません。永遠に考え続ける仕事ですから」
トイズキャビンが製造・販売するのはカプセルトイ。子どもの手の平にも収まるサイズの商品で大人の心もつかむには、発想力が求められる。大ヒット商品となっているバスの停車ボタンは、まさに発想の勝利と言える。
従業員が増えるにつれ、山西さんは経営やマネージメントの比重を大きくしている。商品の立案は若い従業員が中心になり、自らのアイデアを商品化する機会は少なくなった。だからといって、考える時間が減ったわけではない。
■アイデアを考え続ける日々 1割の楽しみがモチベーション
自宅で考え事をしていると独り言が増え、しばしば奥さんに突っ込まれる。アイデアに行き詰まってお酒を飲んでも、苦しみを忘れられるのは酔っている間だけ。アイデアを出さない限り、何も前進しない。山西さんは「苦しさが9割ですが、1割の楽しみのために仕事を続けています。頭の中で描いたものが、段々と形になる喜びがあります」と語る。
商品化に向けたアイデアの絞り込みといえば、一般的には企画会議をイメージする。だが、トイズキャビンでは、あらかじめ日時を決めた会議は開かない。従業員同士で必要に応じて話し合い、その場に山西さんは参加しないという。
「定期的に会議をやってもやらなくてもアイデアを出さなければいけない状況は変わらないので、スタッフに任せています。私が声をかけて会議をすると、おそらく私の方向性で決まってしまい、可能性を狭めてしまいます」
■「何個出荷できる?」 商品化の基準は質問1つ
従業員の提案を商品化するかの基準は1つ。山西さんは必ず従業員に、こう問う。
「その商品、何個出荷できる?」
2年ほど経験を積むと、どんな商品がどのくらい売れるか把握できるようになるという。もちろん、予測が外れる時はある。しかし、山西さんは発案者が消費者をイメージできない商品を流通させない。その理由を説明する。
「具体的な数字を答えられないのは逃げていることになります。利益を予測しなければ、一般の人がほしいと言っているのと同じです」
スタッフの意思を尊重した商品で赤字が出ても、クレームなどのトラブルが起きても、経営者の山西さんが従業員に責任を押し付けることはない。ただ、アイデアを形にする時には覚悟が必要。短い質問にはメッセージが込められている。
(間 淳/Jun Aida)