2023/02/13
尾木ママ流の子育て 新型コロナで失った日常回復へ 今の時代に必要な教育や育児とは
■教育評論家・尾木直樹さん 磐田市で講演会
過去にない激動の時代を生きる子どもたちをサポートするために、大人はどんな役割が求められているのか。尾木ママの愛称で親しまれる教育評論家の尾木直樹さんが12日、磐田市の市民文化会館「かたりあ」で講演した。新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻によって当たり前が奪われている今の子どもたちの「共感力」を育てるには、大人が子どもを尊敬する気持ちが不可欠だという。
磐田市こども未来課が主催した尾木さんの講演会は、市内に在住、在学、在勤する希望者を対象に無料で開催された。講演のテーマは「尾木ママ流 共感子育て」。中学と高校の国語教師を22年間務め、現在は教育評論家として活動する尾木さんが、豊富な経験や知識から子育てに悩む保護者らにアドバイスを送った。
尾木さんは独特の柔らかい口調で、ユーモアを交えながら参加者を引き付けた。ただ、その言葉には、子どもを取り巻く環境への危機感がにじんでいた。新型コロナ感染拡大により日常が奪われ、テレビをつければウクライナとロシアの戦争が続いている。日本で暮らしていれば当り前と感じる安心や安全が脅かされているのだ。尾木さんは会場にいる大人たちに訴えかけた。
「今の子どもたちは先の見通しが立たない時代を生きています。私たちが経験したことのない大変な時代を生きる子どもたちへの尊敬を大人たちが持つべきだと思います」
尾木さんは特に、長期化する新型コロナが教育現場や親子関係に与える影響を懸念している。マスク生活やソーシャルディスタンスは、子どもの成長を妨げるという。
■長期化するマスク生活や黙食 子どもに深刻な影響
人間の喜怒哀楽は0~1歳の間に形成されると言われている。自分が笑った時に相手も笑ったことを確認すると共感されたと認識して安心する。この間、新型コロナの感染リスクから保護者や保育士がマスクをつけて接すると、赤ちゃんは不安になる。相手の表情が分からないため、自分の感情も上手く表現できない。
新型コロナが流行した際、フランス政府が透明のマスクを配布したのは、表情が分かるようにする意図からだった。尾木さんは「大人は経験があるので口の動きが見えなくても、相手の言葉や感情を理解できます。しかし、赤ちゃんは相手の口が見えないと感情を読み取れません」と説明する。実際、保育士からは「赤ちゃんが変なんです」、「赤ちゃんの表情が固まって笑わないんです」などの声が上がっているという。
小、中学校では感染拡大を防ぐため、会話をしないで給食を食べる黙食が導入された。最近は、ようやく会話が解禁されたが、何を話して良いのか分からず戸惑っている子どもが少なくない。尾木さんは「長期間、黙食が当たり前だった子どもたちが急に会話をするのは難しい部分があります。大人が会話のテーマを決めるなど、きっかけをつくる必要があります」と語った。
会話をしながら食事をする時間や、友達と遊ぶ時間は子どもの成長に不可欠だ。4~11歳までは「共感力」が最も育つ時期と言われている。相手の意見や考えを察したり、相手の気持ちに寄り添ったりする共感力はコミュニケーション能力や社会性を高め、自己肯定感にもつながる。尾木さんは言う。
「経験のある大人と子どもは違うんです。共感力が育たなければ、子どもたちの発達が阻害されてしまいます」
■小学校高学年の6.5人に1人が「うつ症状」
新型コロナ対策の専門家会議のメンバーは、ほとんどが医療関係者となっている。感染拡大を防ぐことが最大の目的である以上、仕方がない部分はあるが、尾木さんは教育的な視点が欠けていると指摘する。
講演では深刻な影響の1つとして、うつ症状の子どもたちのデータを示した。うつ状態まではいっていないが、小学4~6年生の15%はうつ状態にある。中学、高校と年齢が上がると、その割合は一層高くなっている。主な要因には、他者と考え方や感情を共有するのが難しい環境があると尾木さんは考えている。
政府は来月13日から屋内外を問わず、マスク着用を個人の判断に委ねる方針を示した。文部科学省は4月1日以降、基本的にマスク着用を求めないとする通知を各地の教育委員会に出している。
新型コロナの感染者が初めて日本で確認されてから3年以上が経ち、ようやく相手の表情が見える生活、気兼ねなく会話できる日常に戻ろうとしている。だが、当たり前を知らない子どもたちの不安や戸惑いは、すぐに解消されない。かつてないほどの難しい時代を生きる子どもたちへの敬意とサポートが、大人たちの重要な任務となる。
(間 淳/Jun Aida)