2023/03/05
全国に広がる高校野球のリーグ戦 静岡県も3校参加 トーナメントにないメリット
■全国100校以上参加のリーグ戦 静岡県は掛川西、掛川東、沼津商
全国的に広がりを見せている高校野球のリーグ戦「Liga Agresiva」が、静岡県でも動きを見せている。昨秋から掛川西、掛川東、沼津商業の3校で参加した。「Liga Agresiva」を大阪府で開始したNPO法人「BBフューチャー」の理事長・阪長友仁さんが静岡県掛川市で講演。リーグ戦のメリットや必要性を訴えた。
「BBフューチャー」の理事長を務める阪長さんは現在、米国でプレーする筒香嘉智外野手やオリックスの森友哉捕手らを輩出した大阪の硬式野球クラブ「堺ビッグボーイズ」の中学部で監督を務めている。自身は立教大学まで野球を続け、新潟県の新潟明訓時代には甲子園にも出場している。
負けたら終わりのトーナメントに疑問を抱かずに野球人生を送ってきたが、大学卒業後に野球と携わる中で、高校生までの世代でリーグ戦を取り入れている国が当たり前と知った。特に、野球の強豪国・ドミニカ共和国で選手が育っている背景には、リーグ戦があると感じた。
阪長さんは、2015年に大阪府の高校6校で「Liga Agresiva」を始めた。リーグ戦に賛同する高校は全国に広がり、現在は参加校が100校を超えている。静岡県でも昨秋から、掛川西、掛川東、沼津商業の3校が加わった。
■トーナメントに不向き 力が拮抗しやすい野球の競技性
阪長さんは甲子園を目指す現在の仕組みを否定しているわけではない。ただ、競技特性を考えると、野球はトーナメントに向いていないと指摘する。例えば、昨シーズン、リーグ連覇を果たしたヤクルトとオリックスの勝率は6割にも達していない。オリックスは勝率.539で、7勝6敗ペースの計算となる。サッカーやバスケットのリーグ戦優勝チームと比較すれば、野球はチームの力が拮抗しやすい競技か分かる。
しかし、高校野球の公式戦では初戦で負けたら、もう試合の機会はない。阪長さんは「勝たなければ次がない仕組みが、勝利至上主義を助長してしまいます。どんなスポーツでも仕事でも同じですが、負けた後や失敗した後に考えて、次に挑戦することで成長できます。トーナメントは成長のチャンスが少なくなってしまいます」と語る。
リーグ戦は負けても次の試合がある。選手は失敗を次に生かすチャンスがあるのだ。さらに、試合数が確保されているため、特定の主力選手に出場機会がかたよらず、より多くの選手がプレーできる。
■球数や変化球、使用するバットに制限 リーグ独自のルール
また、「Liga Agresiva」では独自のルールを設けている。投手は球数や変化球の種類、変化球が投球全体に占める比率が制限されている。打者が使用できるのは反発力の小さい米国製の金属バットか木製バットのみとなっている。その意図を阪長さんが説明する。
「日本の金属バットは飛びすぎるため、道具に頼った打ち方になってしまいます。投手は警戒せざるを得ないので変化球が増え、怪我のリスクが高まります。反発の小さいバットにすれば、打者は打球を飛ばす技術を磨きますし、木製バットへの対応も早くなります。投手はストライクゾーンで勝負できます」
「Liga Agresiva」では基本的なルールを定めているものの、各地域の独自ルールを認めている。例えば、一度交代した選手が再び出場できるリエントリー制を採用したり、1試合あたりの犠打の上限回数を決めたりしている地域もある。大切なのは選手の怪我を予防し、より多くの選手がプレーする機会を得ることにある。
「Liga Agresiva」には今春のセンバツに出場する慶應や、新潟県の日本文理や新潟明訓、岡山県の岡山学芸館など甲子園出場経験のある高校も名を連ねている。これは高校サッカーでは当たり前の仕組みで、全国の強豪校は年末年始に行われる全国高校サッカー選手権を目指しながら、リーグ戦をこなしている。
高校野球の強豪校では、公式戦に一度も出場できずに卒業する選手が少なくない。部活は試合に出ることが全てではないが、トーナメントしかない現在の仕組みは、選手が野球の楽しさを知る機会や成長するチャンスは少なくなる。
(間 淳/Jun Aida)