2023/03/06
なぜ悪ふざけでも「ズボンずらし」は駄目? 焼津市の中学校で性と人権の関わり学ぶ授業
■「ズボンずらし」、「股間掴み」 いけない理由を話し合い
ちょっとした悪ふざけが、相手を深く傷つける可能性がある。静岡県焼津市にある豊田中学校で、「性と人権」を考える授業が行われた。題材は「ズボンずらし」。なぜ友達へのいたずらでもあってもズボンを下ろしてはいけないのかを掘り下げ、生徒たちは性と人権の関連について学んだ。
思春期に性の話をされるのは恥ずかしさがあるかもしれない。だが、体も心も大きく変化する時期にこそ、性教育を学ぶ意義は大きい。性教育には、心身の成長を知る以上の意味があるからだ。
焼津市の豊田中学校では、その大切さが浸透している。2月28日、中学1年生の全クラスで道徳の時間に性教育の授業を実施した。成長期における男女の体の変化を養護教諭が説明した後、性が人権と深く関わっていることを学級担任が生徒たちに伝える。
テーマは「ズボンずらし」。いたずらで友達のズボンを下ろしたら下着まで脱げてしまったら。また、同じように悪ふざけで友達の股間や胸を触ることについて生徒たちが話し合った。
■「手袋を取る」、「手を触る」 気持ちの違いを比較
ズボンをずらしたり、股間を触ったりする行為は「やってはいけない」と把握していても、問題点と向き合う機会は少ない。生徒は「手袋を取る」、「相手の手を触る」ケースと比較して、気持ちがどのように異なるかを考えた。「ズボンをずらすこと」と「手袋を取ること」の違いには、次のような意見が挙がった。
・手袋は外しても見えるのは手。手は普段から見えているが、ズボンを下ろしたら隠しているところが見えてしまう。
・手袋は外すことが前提だが、ズボンは下ろされたら恥ずかしい。
・手は見えても何とも思わない。でも、ズボンずらしは周りにいて見えただけでも嫌な気分になる。
■「自分の体を決める権利は自分だけ」プライベートゾーンを学習
一方、「股間や胸を触ること」と「手を触ること」の差として、以下の考えが発表された。
・手は触られても何も思わないが、股間は頭にくる。
・股間や胸は触られたら痛い時がある。
・普段隠しているところは大事な部分なので、触られたくない。
・股間や胸ほどではないにしても、何も言わずに手を触られるのも嫌。
「手」と「股間や胸」には、どんな違いがあるのか。生徒たちからは要点を捉えた意見が出された。水着で隠す部分は「プライベートゾーン」と呼ばれ、特に触ったり見せたりしたらいけない場所なのだ。
さらに、生徒たちは理解を深めるために、世界各国に普及している動画「コンセント・フォー・キッズ」を視聴した。自分の体をどうするか決められる権利があるのは自分自身だけで、友達でも大人でもない。動画では親しい間柄であっても、相手の同意なしに体には触れたらいけないと伝えている。
■人それぞれ違う考え方 体に触れる時に必要な「同意」
人間は個々に違いがあり、自分はハグが好きだからといって、相手も好きとは限らない。相手に聞いて、同意を得られて初めてハグできる。相手に迷いがあったら、同意は得られていないのだ。
相手からプレゼントをもらったり、脅されたりし、または大人に頼まれて体を触らせるのも本来の同意ではない。これは人権の侵害であり、子どもたちが性被害に巻き込まれる問題も潜んでいる。そして、この動画では大事なメッセージを子どもたちに届けている。
「子どもが同意できないことをする大人がいたら、それは良くないこと。悪いのは大人。子どもは悪くない。そういう時には、信頼できる大人に話すことが大事。君の体をどうするか決められるのは君だけだから」
ズボンずらしが、なぜ良くないのか。「何となく」で終わらせず、明確な理由を考えることで、悪意がなかったとしてもやってはいけないと認識できる。同意のない行為は相手の権利、人権に関わる重大な問題。性を知ることは人権を学ぶことへとつながっている。
(間 淳/Jun Aida)