イリエワニの卵を手にする白輪さん（本人提供）

■iZoo白輪剛史園長　高校生で訪れた農協の祭りが転機

複数の動物施設を運営し、国内最大級の爬虫類イベントや動物園の予備校も展開する元手は、カリンの実2つだった。河津町にある体感型動物園「iZoo」を運営する白輪剛史園長の連載、今回のテーマは現在の事業の資本となった高校時代の成功体験。苦労をプラスに捉えるスタイルは当時から変わっていない。

これまでの連載で、高校生の頃に生き物の卸売をしていたとお話しました。売上は月に30万円ほどで、仕入れなどの費用を引くと、そこまで利益は大きくありませんでした。

高校生の時、帰りに静岡駅前にある松坂屋静岡店の地下を通るのが日課でした。そこに色んな種類の果物を売っている店がありました。デパートに入っている果物屋なので、商品が少しでも傷むと廃棄していました。そこで、「捨てるならください」とお願いしていました。

果物をもらう目的は種です。家に帰って種を撒いて育てます。どうやったらより生育するかを調べたり、考えたりするのが趣味でした。

植物に興味があったので、高校2年生になった頃、農協の祭りに行きました。色んな植物が持ち寄られる中で、行列ができているテントがありました。覗いてみると、見たことのない黄色い実が売られていました。列に並んでいる人にたずねたら、カリンでした。

喉に良いと言われているカリン

■カリンの実2つ購入→種を撒いて250本の苗を販売

初耳だったので詳しく聞くと、喉に良くて酒や氷砂糖につけてシロップにして飲むと言われました。値段は1つ800円。高いなと思いながら、私は2つ買いました。

家に帰って、すぐに実を割りました。私がほしいのは、実ではなく種です。1つの実につき250～300個の種が入っていました。芽が出たら商売になると思って、種を撒きました。

毛虫の被害や台風の影響を受けましたが、250本くらいは1メートルの大きさまで育ちました。農協に電話すると場所代で1割かかるものの、誰でも植物の販売ができると言われたので、カリンの苗を販売するために車を出してほしいと親にお願いしました。最初は「みっともないから、やめなさい」と拒まれましたが、説得して渋々了承してもらいました。

販売価格は1280円。1つ800円の実に行列ができるなら、育てればいくつも実がなる苗は1280円で十分に売れるだろうと考えました。午前9時に約250本のカリンの苗を並べると、午後1時に完売しました。経費は水をあげるくらいなので、ほとんどが利益です。

この時に得た現金30万円の塊と、それまでに生き物の卸売であげた利益が、今のビジネスの元手になっています。カリンの販売で手にした30万円で生き物を仕入れて、個人や店に販売する。それを繰り返して利益をあげ、資金を増やしていっただけです。経営学のような特別な勉強はしていません。勉強していないからできた手法だと思っています。

■「考えているのは今だけ」　失敗はオンリーワンになるチャンス

よく人に聞かれますが、先見の明なんてありません。考えているのは今だけで、先は見ていません。今、何をすれば誰が喜ぶか、どうしたら儲かりそうか、考えるのはそれくらいです。

特別な行動力があるわけでもありません。自分が好きだから行動しているだけです。芸能人やゲームに興味を持っている同級生と違い、私は爬虫類や植物を扱う仕事が楽しかっただけです。

カリンを育てて売った時に感じたことがあります。種を撒いて芽が出てくると、毛虫がたくさんつきました。そこで、毛虫を防ぐ薬を使ったら薬害が出て、葉っぱが縮みました。

ある程度カリンが成長してきた時は、台風の影響でかなりの数がダメになりました。予想通りに進まないことは必ず起こります。でも、その経験をしたからこそ、使ってはいけない薬や水害のリスクを知ることができました。まだカリンを育てた経験がない人より、一歩先に行けたわけです。

苦労は、他の人が味わえない貴重な経験や知識になります。乗り越えれば、オンリーワンになれる可能性が高まります。そう考えて仕事をしているので、私は壁に直面した時が楽しいですし、全てにおいて前向きです。

＜プロフィール＞

白輪剛史（しらわ・つよし）。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。