2023/05/30
イチロー氏に指導受けたチーム同士が対戦 140キロ離れた進学校の高校野球部が交流深める
■イチロー氏が直接指導 富士高校と新宿高校が練習試合
縁のなかった2つの野球部をつないだのは、イチローさんだった。静岡県の富士高校と東京都の新宿高校が28日、練習試合を行った。ともに公立の進学校で、元メジャーリーガーのイチローさんから直接指導を受けて話題となった両校。貴重な共通点から親近感が沸き、交流が実現した。
富士山を望む長閑な地域にある富士高校は、東大や京大の合格者を輩出するなど、静岡県東部有数の進学校として知られている。その富士高校から約140キロ。新宿高校は、都会の象徴ともいえる東京都新宿区に校舎を構える。何の縁もなかった2つの高校だが、昨年末に急接近する出来事があった。富士高校の富永大輝選手が言う。
「イチローさんのおかけで交流できました。会う前から親近感がありました」
2つの高校には他校の球児がうらやむ共通点がある。昨年、イチローさんから直接指導を受けたのだ。富士高校野球部は、地域の子どもたちを対象にした野球教室で競技の普及に取り組んでいる。また、勉強との両立を掲げて部活動に励んでいることから、イチローさんが指導先に選んだという。
■4-3で富士高がサヨナラ勝利 選手も監督も交流深める
イチローさんが富士高校に来たのは昨年12月4日。この直後、富士高校の稲木恵介監督は、すでにイチローさんの訪問を受けていた新宿高校の田久保裕之監督に連絡した。「練習試合をしませんか?」。イチローさんが、2つの高校をつないだ。
高校野球は何か月も先まで、週末に練習試合の予定を組んでいる。富士高校が練習試合を予定していた綾瀬高校の協力を得て、5月28日に新宿高校を加えた3校での練習試合が決まった。
富士高校と新宿高校の一戦は1点を争う試合となり、富士高校が9回にサヨナラ勝利した。試合後に両校の選手は会話し、両監督も試合前後に交流を深めた。稲木監督は「イチローさんの話から始まって、情報共有したり、悩み相談したりしました。イチローさんの指導を受けた共通点があったので、初対面という感じはしませんでしたね」と笑う。
選手にとっても貴重な時間となった。2番・二塁で出場した富永選手は「新宿高校の選手とイチローさんの話をして、進路についても話しました。塁上ではヒットを打った選手にナイスバッティングと声をかけました」と語った。
■イチロー氏の指導で選手の意識に変化
富士高校の選手たちは、イチローさんの指導を受けて野球への取り組み方に変化が生まれたという。稲木監督は、こう話す。
「限られた時間で、どうやったら上手くなるのか、選手たちが今まで以上に考えるようになりました。決して体が大きくないイチローさんがフリー打撃で打球を遠くまで飛ばし、ティー打撃の1球にどれだけ集中して力を込めているのかを披露してくださったことで、選手の意識が変わりました」
選手の可能性を広げ、野球に取り組む姿勢を変えたイチローさんの直接指導。出会うことがなかったかもしれない富士高校と新宿高校が交流する架け橋にもなった。
(間 淳/Jun Aida)