2023/07/14
47都道府県制覇は間近 小さく生まれた赤ちゃん向け 工夫と喜びが詰まった手帳
■静岡市のポコアポコ作成 「リトルベビーハンドブック」が全国に拡大
47都道府県制覇が近づいている。静岡市のボランティア団体「ポコアポコ」が県内で初めて作成した「リトルベビーハンドブック」が、全国に広がっている。リトルベビーハンドブックは小さく生まれた赤ちゃんを育てる保護者向けの手帳で、育児の不安を和らげ、子どもの成長に喜びを感じられる工夫が詰まっている。
妊娠した女性が受け取る母子手帳。妊娠の経過や赤ちゃんの発達、健康診断や予防接種の情報などを記録する。母子手帳は、我が子の成長を実感する機会にもつながっている。
ただ、母子手帳は「平均」に合わせてつくられている。小さく生まれた赤ちゃんは想定されていないため、母子手帳が活用できずに落ち込む母親は少なくない。「ポコアポコ」の小林さとみ代表も、その1人だった。現在21歳になる双子の娘を出産した際、2人とも1000グラム未満だった。
「母子手帳には月齢と平均体重を示したグラフがありますが、当時の母子手帳は体重のグラフが2000グラムからだったので、娘たちの出生体重は記録できませんでした。成長も遅かったので、なかなか母子手帳に書けることがなく、とにかく打ちのめされました」
■子どもの体重増加=母親の評価 育児に悩む日々…
同じような悩みを持つ母親の助けになりたい――。小林さんの思いを形にしたのが「リトルベビーハンドブック」だった。ある日、小林さんは熊本県で小さく生まれた赤ちゃん向けの「リトルエンジェル手帳」の存在を知った。すでに小林さんの娘は小学生になっていたが、生後間もない頃の体重はリトルエンジェル手帳に記されたグラフに乗った。
「子どもの体重が増えることは母親としての評価と思いながら子育てしていたので、子どもの体重が減ると落ち込んでいました。リトルエンジェル手帳があれば、体重を過剰に気にする必要はなかったかもしれないと感じました。これから育児を始めるお母さんたちに広めたいと強く思いました」
熊本県のように小さな赤ちゃん用の手帳をつくろうと、小林さんは静岡県に補助金を申請した。補助金を活用して熊本県へ視察に行き、静岡県版の手帳をつくるための情報を集めた。
小林さんは母親目線で、ポコアポコ版のリトルベビーハンドブックを完成させた。その内容は、静岡市内の新生児科医や理学療法士、作業療法士や保健師、そして当事者である母親たちも巻き込んで改良を重ねた。生まれた時の体重が少なくても成長を記録できる工夫に加えて、記入できる喜びにこだわった。
一般的な母子手帳は、赤ちゃんの月齢によって「寝返りができるか」、「つかまり立ちができるか」などの質問が設けられ、「はい」か「いいえ」を選ぶ。ところが、小さく生まれた赤ちゃんはゆっくりと成長するため、保護者は「いいえ」ばかりを選択することになる。
■母親目線で作成 「初めて記念日」で育児の喜び実感
そこで、静岡県版のリトルベビーハンドブックでは、「初めて記念日」のページをつくった。「初めて抱っこした日」、「初めて泣き声を聞いた日」、「初めて口からミルクを飲んだ日」。小さな赤ちゃんを育てる保護者だからこそ実感できる喜びがあると小林さんは言う。
「小さな赤ちゃんは保育器に入るので、お母さんにとって出産日と我が子を抱っこした日は同じではないことも多く、初めて泣き声を聞くのは、呼吸器が外れた時の場合もあります。ミルクも最初は管で鼻から直接胃に入れる子どもいて、たくさん付けられた管やチューブが1つずつなくなっていくことが母親にとっては大きな喜びです。一般的には当たり前と感じることが、小さく生まれた赤ちゃんには初めて記念日なんです」
リトルベビーハンドブックは、ポコアポコの取り組みに賛同した国際母子手帳委員会などの協力を得て、全国に広がっている。静岡県がデータを公開し、他の自治体に活用を認めているサポート体制も広がりを加速させている。
最新の情報ではリトルベビーハンドブックの運用または導入予定の自治体が、全国39まで増えた。47都道府県の制覇に近づいているが、小林さんが見据えるゴールはまだ先にある。
「小さく生まれた赤ちゃんだけではなく、ダウン症の子どもや心臓病の子どものように、母子手帳を使えない理由は他にもあります。母子手帳でカバーできないところを増やし、子どもに合わせてカスタマイズできるものが必要だと思っています。それから、リトルベビーハンドブックを手渡したら支援が終わりではありません。お母さんたちをサポートするツールの1つと考えています」
小さく生まれた赤ちゃんと家族の支えとなる「リトルベビーハンドブック」。リトルベビーという言葉が、もっと社会に広がるよう、小林さんは活動を続けていく。
(間 淳/Jun Aida)