2023/07/24
名物パンは売上の1割 “本業”は常時80種類の焼き立て 価格を上げない工夫も
■のっぽパン販売するバンデロール 主力は焼き立てパン
静岡県のご当地パン「のっぽパン」で知られる沼津市のバンデロールは、多種多様な焼き立てパンを販売している。毎月10種類以上の新作を発売し、店舗には常時80種類ほどのパンが並ぶ。「パンを育てる」思いを大切にし、家族で気軽に楽しめる価格を維持する工夫も凝らしている。
静岡県民なら知らない人がいないほど有名な「のっぽパン」。意外と知られていないのが、のっぽパンをつくっているバンデロールが製造・販売しているパンのバリエーション。実はのっぽパンが占めるのは売上の10~15%で、店舗で販売する焼きたてパンが“本業”なのだ。
店舗の規模にもよるが、洋菓子から総菜パンまで約80種類の商品が並ぶ。季節の食材を使ったパンなど、新作は毎月10種類を超える。取締役管理本部長の野田歩さんは「お客さまにはパンを選ぶ楽しさも味わってほしいと思っているので、味に加えて品揃えと焼き立てにもこだわっています。その分、手間はかかりますが喜んでいただくやりがいがあります」と話す。
定番の人気商品は塩パンやカレーパン。塩パンはアンコとホイップクリームをはさんだものやサンドウィッチなど種類が豊富。牛肉入りのカレーはタマネギの甘さでバランスを整えたオリジナル。甘すぎず辛すぎない絶妙な味が幅広い年齢に好まれている。
■「慌てて作業する人にいいパンはつくれない」 創業から理念継承
バンデロールの設立は今から50年以上前の1972年。その歴史は、1949年の二本松製パン所の創業から始まっている。パンづくりで継承してきた考え方は「パンを育てる」。生地づくりでは、休ませて発酵させる工程が何度もある。生地は完成までの過程で、所々休ませて発酵させることで仕上がりの味が変わるからだ。
バンデロールでは1日に100種類以上のパンをつくっているため次々と作業を進めていきたいところだが、必ず発酵の時間を確保する。野田さんは「慌てて作業を進める人には、いいパンはつくれません。急ぎたい気持ちをぐっと我慢して、生地を発酵させている間に別の作業ができるように仕事を組み立てていきます」と語る。
生地に入っているイースト菌は気温によって活動が変化する。活動がおとなしくなる冬場は生地が膨らむまでに時間がかかるため、スタッフは室温を調整しながらベストなタイミングを見極める。
生地をつくる前の段階でも手間を惜しまない。小麦粉に水を入れていく工程では、時間を置いて作業を進めた方が、小麦粉の中にしっかりと水が入っていく。1つ1つの小さな積み重ねが、最終的な味の違いに表れる。
■アウトレットでパン販売 価格維持と食品ロス削減
手間や時間をかければ、それだけ経費は膨らむ。ここ数年は原材料費の高騰が逆風にもなっている。本来はパンの価格に転嫁したいところだが、バンデロールは「家族で気軽に楽しめるパン屋」を大切にしてきた。「丁寧につくっている商品を正当に評価してほしい」という思いを持ちながらも、値上げは最小限にとどめている。
値上げを避けるための取り組みの1つが、3年ほど前に始めた「工場直売市」だ。毎月第1、第3日曜日に、沼津市の西島工場でアウトレットを開催している。味は店舗で販売するパンと変わらないが、少し変形した商品や賞味期限が近い商品を最大半額で購入できる。野田さんは「食品ロスを減らすと同時に利益につながっています。原材料費の高騰を、そのまま価格転嫁しないようにしたいと考えています」と説明する。地域の交流の場にもなっているという。
近年は、異業種から転身した高級パンが話題にあることもある。ただ、一過性のブームは、やがて日常から消えていく。手間を惜しまず慌てずに「パンを育てる」。時代は移り変わっても、バンデロールが追い求める理想は同じ。長く愛されるパン屋であり続ける。
(間 淳/Jun Aida)