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2023/07/31

学童保育の待機児童 “小4の壁”に挑むおもちゃメーカー 利益より使命感で決断

シャオールが運営する浜松市内の学童保育

■浜松市の学童待機児童190人 小学4年が最多71人

保育園の待機児童の問題は全国的に解消されつつある。浜松市では3年連続で待機児童は0人となっている。一方、新たな課題となっているのが、もう1つの待機児童。学童保育と呼ばれる小学校の放課後児童クラブに入れない子どもたちだ。中でも深刻なのが「小4の壁」。浜松市には、その壁に挑む知育玩具メーカーがある。

 

待機児童の問題が大きく取り上げられた投稿「保育園落ちた日本死ね」から7年が経った。当時400人を超えていた浜松市の待機児童は2021年に0人となった。希望した保育園に入園できていない「隠れ待機児童」の問題は残っているものの、保育園の待機児童は大幅に減っている。

 

それに対し、新たな問題となっているのが学童の待機児童。浜松市には5月1日現在で190人の児童が学童を利用できていない。公設の学童は小学校から近い場所の確保が難しく、簡単には数を増やせない現状がある。

 

学童保育で課題として指摘されているのが「小4の壁」。学年別に見ると、浜松市の待機児童は小学4年生が71人で最も多い。小学3年生が51人と続き、この2つの学年で全体の約3分の2を占めている。

 

学童は上限の人数が決まっており、優先されるのは小学1年生を中心にした低学年。学年が上がっていけば保護者がいなくても自宅に帰って1人で過ごせるという考え方が根底にある。

学童に置いてあるシャオールのおもちゃで子どもたちと遊ぶ宮地社長(左)

■シャオールの宮地社長決断 「事業の損得ではなく必要」

小4の壁を解決しようと動いているのが、浜松市に本社を置く知育玩具メーカー「シャオール」。主に未就学児向けのおもちゃを製造・販売している企業だが、2020年4月に民間の学童保育をスタートした。

 

新型コロナウイルスの流行が始まった時期だったことに加えて、本業ではない新しい事業に対して社内では反対の声もあったという。宮地完登社長が明かす。

 

「初めての事業ですし、お金も人も手間もかかります。社内では、待機児童の問題を解決したい気持ちには理解を示しながらも、上手くいくのか疑問や不安を感じている社員が少なくありませんでした。ただ、自分自身としては事業として成り立つかという損得ではなく、必要だと思いました。始める以外の選択肢はないと、みんなを説得しました」

 

なぜ、宮地社長は利益を度外視してまで学童にこだわるのか。きっかけは社員の言葉だった。2019年の夏、宮地社長は社員の1人から相談を受けた。その社員には当時、学童に預けている小学3年生の子どもがおり、小学4年生になる次年度は学童を続けるのが難しいため、働き方を変更せざるを得ないという内容だった。

 

■公設の学童と違った役割 小学6年生まで成長を見守る場所に

宮地社長は学童保育の待機児童問題について把握はしていた。社員の相談を受けて浜松市の学童事情を調べると、同じ問題に直面している家族が想像以上に多かった。そして、行政が公設の学童を増やすハードルの高さも知った。

 

「公設の学童が新しくできるのを待っていても問題は解決しないと感じました。私たちは子どもたちに向けたおもちゃをつくる会社ですし、会社の福利厚生にもなるので自分たちで学童の施設をつくろうと考えました。利益を出せる事業ではないと分かっていましたが、使命感や責任感の方が強かったです」

 

児童を受け入れる場所や人材の確保には当然、安くない費用がかかる。未知の事業で、児童を集めるノウハウもない。それでも、宮地さんは、すぐに行動した。迷いはなかった。

 

宮地さんは、シャオールの学童を公設の学童と違った役割と位置付ける。根本にあるのは「子ども成長を見守る」考え方。小学1年生で利用を始めた児童が、6年生まで通える場所を目指している。

 

「無理に通う必要はないので、高学年でも必要な時に子どもたちが来る場所として選択肢になればと思っています。保護者の方にも毎年、学童に入れるのかどうかを心配するのではなく、シャオールなら6年間預かってもらえるという安心感を持っていただきたい気持ちです」

シャオールの学童では宿題をする児童も

■小学4年生から無料 保護者のニーズに合わせたサービス

シャオールの学童では利用1回に付き、料金が必要になる。ただ、小学1年生から継続して利用した場合、4年生以降は利用料金がかからない仕組みになっている。運営開始から4年目を迎え、実際に高学年の児童も通っている。学童は小学1、2年生だけではなく、高学年やその保護者にも必要な場所だと実感している。

 

シャオールの学童には補助金が一切入っていない。家賃や光熱費、正社員を含むスタッフの人件費などをまかなうため、公設の学童より料金は高い。その分、運営方法は自由なので、利用者の要望を実現させるサービスを心掛けている。

 

例えば、学童で過ごす子どもたちの様子を撮影した写真をクラウドに上げ、保護者が無料で入手できるようになっている。シャオールの全スタッフと各家庭はLINEグループをつくっており、細かな連絡や突然の変更にも対応している。

 

イベントも盛りだくさんで、夏休みには大型バスを借りての遠足、ゲームやお菓子を用意した夏祭り、水鉄砲大会などを企画している。毎月のお誕生日会、ハロウィンやクリスマスといった季節のイベントも開催している。

 

子育ての環境は、ひと昔前と大きく変わった。共働きの家庭は増え、祖父母が現役で仕事をしているケースも多い。安全面の懸念から小学生の子ども同士で遊ぶ機会は減り、外で遊ぶ場所自体も少なくなっている。「小学校高学年の親子も学童を必要としている現状を広く知ってもらい、公設、民間を問わず受け入れ先が増えたらと思っています」と宮地社長。知育玩具メーカーが学童の待機児童問題と正面から向き合っている。

 

(間 淳/Jun Aida

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