2023/07/31
賃上げは必要最低限の条件 平均的な人材と優秀な人材を確保する手段の違いとは
■モチベーションや定着率向上 賃上げに一定の効果
物価高騰への対応や人材確保の必要性などから、今春は静岡県内の企業も積極的に賃上げへ踏み切った。賃上げによって社内のモチベーション向上といった効果を実感する企業がある一方、全体の4分の1以上が「特に効果はない」という。深刻な人材不足を解消するには、賃上げだけでは解決しない現状が数字でも表れる形となった。
浜松市の一般財団法人「しんきん経済研究所」は7月、人材確保という観点から賃上げによってどのような効果を得られたのかアンケートを実施した。その結果、41.9%の企業が「社内のモチベーションが向上した」と回答。14.8%が「定着率が向上した」、12.2%が「必要な人数・必要なスキルを持った人材を確保できた」と答えた。
賃上げした大半の企業で給与水準の引き上げが社内のモチベーションや従業員の定着率のアップにつながっていると実感する一方、26.0%の企業が「特に効果はなかった」と回答している。
しんきん経済研究所によると、賃上げによる影響は業種や企業の規模によって大きな違いはなく、深刻な人手不足解消の決定的な手段にはなっていない。そして、企業が求める人材を獲得するには、賃金以外の条件をポイントに挙げている。
「ほしい人材を獲得する1つの方法は、今の従業員たちが働いている労働環境を改善することではないだろうか。労働時間や作業環境や研修体制の整備など、従業員が仕事に打ち込める環境を整え、やりがいを感じて生き生きと働ける職場をつくることである」
■能力の高い人材が職場に求める2つの要素とは?
しんきん経済研究所の分析に対し、浜松市内にある大手企業の役員は一部に同意した上で、やや違った見方を示す。就職、転職活動中の人が勤務先を選べる売り手市場の今、完全週休2日制をはじめとした労働条件や環境の整備は必要最低条件だという。
「平均的な能力の若い世代は、残業や休日出勤をして働くほど仕事に熱量がありません。仕事とプライベートのバランスを重視している人が多いです。平均レベルの人材を確保するには、土日祝日の休みが絶対条件になります」
他社の経営者や人事担当者と話をしていても、就職、転職希望者は仕事内容以上に残業が少なく、休日を確保できることを優先する傾向が強くなっているという。そして、企業が必要とする優秀な人材獲得には、他の要素が大切になると強調する。
「能力の高い人材が求めているのはスキルアップできる場と正当な評価です。見本にする先輩や上司がいる、組織でしかできない仕事があるといったメリットがなければ、理想に近い企業へ転職したり、独立したりする道を選びます。また、自分の10年後、20年後をイメージして働いているケースが多いので、業務の質と収入が見合わない年功序列の評価制度の企業は将来性がないと判断されてしまいます」
しんきん経済研究所は「コロナ禍に苦しんだ過去2年間であっても県西部の中小企業では人手不足感が継続しており、各社は人材確保に苦労している」と指摘している。人材確保の難しさに直面しているのは、静岡県西部や中小企業にとどまらない。賃上げは問題解決の1つの手段となる可能性はあるが、決して十分とは言えない。
(SHIZUOKA Life編集部)