2023/08/12
少年野球チームに中学校剣道部の課題解決のヒント? カリスマ指導者の練習見学
■静岡聖光学院の生徒が熱望 多賀少年野球クラブ訪問
競技や年齢が違っても、成功しているチームには学びがある。部活動の方針に特徴がある静岡市の静岡聖光学院中学の生徒が、“少年野球界のカリスマ”と呼ばれる辻正人監督が率いる滋賀県の多賀少年野球クラブを訪れた。練習を見学したのは剣道部とラグビー部の生徒。園児と小学生が所属する野球チームから、部活動の課題を解決するヒントを見出した。<ラグビー部編に続く>
6月下旬、静岡聖光学院の剣道部とラグビー部の生徒は多賀少年野球クラブのホームページに記載されている連絡先へメッセージを送った。チームを指揮する辻監督の書籍や動画で指導法を知り、練習を直接見たいという要望だった。辻監督から快諾の返事がすぐに届き、静岡聖光学院の生徒が希望した約1か月後の日時に練習見学が実現した。
辻監督の名前は少年野球界で広く知れ渡っている。毎年のように全国大会に出場し、これまで3度の日本一を達成している。さらに、野球の競技人口が急速に減る中、部員数は園児から小学6年生まで110人以上が所属。怒声罵声の禁止や選手にサインを出さない「ノーサイン=脳サイン」など少年野球界の常識を次々と覆し、楽しさと強さを両立している。
その指導法や練習法を学ぼうと、辻監督のもとには野球の指導者はもちろん、他の競技の指導者やスポーツとは関係ない会社経営者も訪れる。選手が自主的に動く言葉のかけ方や練習の工夫は、あらゆるスポーツやビジネスで参考になる部分がある。
■楽しみながら勝利するチームづくり 競技問わずに手本
静岡聖光学院の生徒も、課題解決のヒントを多賀少年野球クラブから得ようと考えた。剣道部の太田陽貴さん(中学3年)が説明する。
「練習の質を高めて結果を出すにはどうすれば良いのか調べていたところ、辻監督を知りました。楽しみながら勝利するチームづくりや考え方は、競技や練習環境が違っても手本になると思いました」
中・高一貫の静岡聖光学院は文武両道や人間力の育成を掲げている。勉強や課外活動も重視しているため、部活は運動部も文化部も活動時間は1時間半(冬期は1時間)で、火、木、土曜日の週3日と決まっている。限られた活動時間で最大限の効果を生む方法を考え、高校のラグビー部は全国大会の常連となっている。
太田さんが所属する剣道部は中学生と高校生が一緒に活動し、部員は計20人。上下関係がない仲の良さが特徴だが、試合で勝てないところに課題がある。太田さんは多賀少年野球クラブの練習を見学し、気付いたことがあったという。
■メンバー間で考え方に違い→チームの仕組みに問題
「剣道部の練習では素振りの時間がありますが、これは自宅で個々にできる練習です。これまで何となく続けているメニューをこなすのではなく、1人ではできない練習を部活でやっていく必要があります。部活の時間は限られているので、無駄を省いて効率を上げていく重要性を感じました」
多賀少年野球クラブの活動は土日祝日が基本となっている。火曜と木曜の夕方は選手だけで練習する時間を設けているが、自由参加なので参加率は3分の1から半分ほど。土日祝日の練習も小学3年生までは2~3時間、4年生以上も半日と短い。優先順位をつけて練習し、選手自らが考えて楽しみながら練習するからこそ、短時間で高い効果を得られる。
太田さんは実際に練習を見学し、多賀少年野球クラブの雰囲気の良さも感じた。なぜ、誰もが上手くなりたいと同じ意識で練習できるのか。辻監督に質問すると、アドバイスを受けた。
「部員の中で考え方に大きな差があるとすれば、仕組みが上手くいっていないのではないかと指摘されました。部活に入ったということは、最初はやる気があったはずです。どこかでモチベーションが下がったのは、やる気を失う原因や仕組みがあるというお話でした」
■稽古前にマラソン大会 常識に捉われない練習や考え方参考に
太田さんは運動が苦手で小学生の時はスポーツをしていなかった。中学から剣道を始め、練習を頑張ることに楽しみを感じている。ただ、選手の野球歴や能力、その日の気分などに応じて練習メニューをアレンジする辻監督の指導を見て、同じ練習でも選手によって捉え方が違うと気付いた。
「自分はきつい練習でも頑張ることに楽しみを感じていても、そうではない部員もいます。何を楽しいと感じかは人それぞれです。多賀少年野球クラブのように、楽しみながら上手くなる方法を考えていきたいと思います」
太田さんは多賀少年野球クラブの練習見学後、剣道の稽古前にマラソン大会を開催した。自身は最下位だったが、楽しかったと話す部員もいた。竹刀を手にする練習だけが上手くなる方法とは限らない。実際、辻監督もグラブやボールを使わない練習を取り入れたり、グラウンドに隣接する森で遊んだりする時間をつくったりしている。
常識に縛られたままでは成長のチャンスを逃す。「競技もカテゴリーも違いましたが、辻監督の考え方は自分たちが求めているものと同じでした」と太田さん。少年野球のカリスマの教えを中学の剣道部へ注入する。
(間 淳/Jun Aida)