2023/08/20
日本の120万世帯が飼育 なぜミドリガメは爆発的な人気に? きっかけはお菓子
■日本に850万匹生息 商売意識に乗って大流行
爬虫類を苦手にする人が多い中、日本で長年愛されてきたのがミドリガメ。日本には850万匹いると言われている。数が増えすぎて、今年6月に条件付き特定外来生物に指定されたほど。爬虫類の専門家で河津町にある体感型動物園「iZoo」の園長を務める白輪剛史さんの連載、今回のテーマはミドリガメ。なぜ日本でこれだけ増えたのかを語る。
ミドリガメと呼ばれているミシシッピアカミミガメは、小さいうちは緑色で耳の後ろにある赤い模様が特徴です。カメは世界中に400種類以上いますが、ミドリガメだけが大量に輸入されました。
環境省は120万世帯がミドリガメを飼育し、日本に850万匹が生息していると発表しています。なぜ、ここまで人気を集めたのか。その理由は、日本人の商業意識に上手く乗っかったからです。
ミドリガメは最初から日本人に受け入れられたわけではありません。きっかけは、50年以上前のお菓子のキャンペーンでした。お菓子を買って応募すると、米国アマゾンのミドリガメが当たるキャンペーンが子どもたちの話題になりました。抽選で当たるのは特別感があり、実際にミドリガメを手にした子どもたちが周りに自慢するわけです。
そこから需要が高まって、多くのペットショップで売られるようになりました。みんなからカメさんと呼ばれるまでに愛されて、日本中に広がっていったわけです。私も初めて飼った爬虫類はミドリガメでした。園児の頃に爬虫類展で買ってもらい、飼育の仕方を図鑑で調べて知識を増やしていきました。
■飼い主は無責任? 日本人の優しさでミドリガメ天国に
ミドリガメは、人間の欲望で連れて来られたかわいそうなカメと表現されることがあります。決して、そんなことはありません。ミドリガメは「狙い通り」と笑っていると思います。
爬虫類の最大の使命は子孫繁栄。勢力を拡大したいわけです。ミドリガメは自分たちのかわいさが日本人の心に刺さって、ペットの地位を確立しました。日本の生態系を崩したと言われ、外来生物法に抵触するまで分布域を広げました。
ミドリガメを池に放した飼い主に対して「何も考えず無責任」とよく言われますが、大きな間違いです。多くの飼い主が「家の水槽では狭くてカメがかわいそうだから、もっと広いところに逃がしてあげよう」と考えます。カメを捨てるのではなく、もっと広くて仲間がたくさんいるところへ逃がしているわけです。より良い環境で育ってほしいという日本人の優しさによって、日本はミドリガメ天国となりました。
ところが、ミドリガメは数が多すぎると批判されるようになりました。日本人が逃がしたから生態系が崩れたと指摘する人もいて、ミドリガメは社会問題、環境問題の象徴になっています。生態系というものがあるなら、ミドリガメが多少は崩したかもしれません。
■日本古来のカメ減少 ミドリガメに責任転嫁
ただ、それによって日本古来のカメがいなくなったと短絡的に結び付けるのは疑問があります。元々、日本のカメはきれいな水にしかいません。人間が開発してきたところにはいないわけです。ミドリガメは、日本のカメが住めない場所に住んでいるだけです。カメが住めない環境にした人間が、責任をミドリガメに押し付けています。
ミドリガメが田んぼに増えすぎて困ると、駆除を進めている地域があります。ところが、ミドリガメがいなくなった田んぼは外来種のジャンボタニシが増えて、稲への被害が大きくなっています。時間をかけて変化してきた生態系を人間の手で急に変えようとしても、思い通りにはいきません。
水をきれいにすると言っても、人間がきれいと感じる水と生き物の住みやすさは同じではありません。きれいや汚いという価値観は絶対ではない、何事も0か100かでは解決できないことがミドリガメからも見えてきます。
ミドリガメは今年6月1日に外来生物法に基づく「条件付き特定外来生物」に指定されました。これまで通りペットとして家庭での飼育は問題ありませんが、野外に逃がすことは禁止されています。違反すると最大で3年以下の懲役、300万円以下の罰金が科されます。
売ることはできないので、一度飼育したら第三者に譲渡するか殺処分するしかありません。今までは自然に逃がしたらカメが幸せになると思っていた飼い主も、家の中で幸せな空間をつくる必要があります。
<プロフィール>
白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。