2023/08/26
キック磨いてJリーガーに サッカーの常識にとらわれない 7年かけて見つけた蹴り方
■町田ゼルビア・鈴木準弥選手 子どもの頃からキックを研究
小学生の時に気付いた自分の武器を磨き続け、Jリーグの舞台にたどり着いた。静岡県沼津市出身でJ2のFC町田ゼルビアに所属するDF鈴木準弥選手は、自分に合った蹴り方を子どもの頃から追求してきた。感覚を掴んだのは大学生の時。日本代表DF吉田麻也選手のような体の大きな選手とは違い、体の軸を意識してギュッと力を凝縮するようなコンパクトな蹴り方だった。
鈴木選手はJ3の藤枝MYFCから日本でのキャリアをスタートし、J2のブラウブリッツ秋田を経て、2021年のシーズン途中にFC東京へ移籍した。今年7月からはJ2の首位を走る町田ゼルビアでプレーしている。鈴木選手の特徴は豊富な運動量や球際の強さ。そして、何よりも精度の高いキックにある。
幼稚園の時にサッカーを始めた鈴木選手は子どもの頃、泣き虫だったという。両親が心配して、空手や水泳、野球など様々なスポーツに通わせたが、どれも続かなかった。唯一、継続したのがサッカーだった。鈴木選手は回想する。
「サッカーも小学1年生までは泣いていました。2年生くらいから泣かずに通えるようになって、3、4年生の頃にはキックなら他の選手に勝てるかもと思うようになりました。小学生の頃は正確さよりもキック力に自信があって、キックオフゴールも決めていました」
自分の長所に気付いた鈴木選手は、プロを目指して武器を磨いた。当時はロベルト・カルロス、ロナウジーニョ、デビッド・ベッカムら、特徴のあるキックをする選手が多かった。どうすれば強く遠くまでボールを蹴れるのか考えたり、無回転で不規則な変化や大きく曲がる蹴り方のまねをしたりした。
■「力をギュッと溜め込む」 大学生で見つけた自分の蹴り方
中学生になると、キックについて一層深く考えるようになった。ひたすらボールを蹴って練習していた小学生の頃と違い、自分の体に合った蹴り方を模索した。その研究心は高校と大学でも続き、ついに求めていた感覚にたどり着いた。
「大学で『これだ』という蹴り方が見つかりました。中学から考え続けて7年くらいかかりました。自分はセンターバックにしては体が小さくて、手足も長くありません。体の大きな選手と同じ蹴り方よりも自分に合った方法があるはずだと、ずっと思っていました」
一般的にボールを遠くまで蹴るには、体を大きく使って遠心力を生かす。ただ、身長176センチの鈴木選手は、身長189センチの吉田麻也選手を例に出して、こう話す。
「背が高くて手足も長い吉田麻也さんの蹴り方は、スーッという感じです。場合によっては動きがスローに見えるかもしれません。自分の場合は、体の軸を意識します。力をギュッと溜め込むイメージで、コンパクトに蹴ります」
■キックは軽視されがち 小中学生に上達法を指導
常識に捉われず自分に合った方法を追求する鈴木選手。シーズンオフの期間などを活用して、自らの経験やキックの上達法を若い世代にも伝えるキックスクールを開いている。
小、中学生に指導していると、キックが“軽視”されがちだと感じる。普段のチーム練習では、ポジションごとに分かれたメニューが目立つ。狭いスペースでのパスやドリブルが重視され、「強く蹴る」、「遠くへ正確に蹴る」といった練習が圧倒的に少ないという。
「自分たちの頃はディフェンスの選手やキーパーもシュートやフリーキックを練習していました。今は情報量が多いので、効率の良さを求めてポジション別に練習している印象です。戦術的な練習をしていた方が保護者は納得するという指導者の声も聞きます。キックの練習は、選手が指導されていないように見えてしまうのかもしれません」
鈴木選手はキックの上手さはイメージ力と大きく関係すると話す。「力があれば強いボールは蹴れます。そうではなく、自分の力を最大限に生かす蹴り方を探してほしいと思います」。周りと同じことをするだけでは突出した選手にはなれない。キックスクールを通じて、自分なりの方法を見つける大切さを伝えている。
(間 淳/Jun Aida)