2023/09/26
移住者が1年で5.6倍 自然豊かで意外と都会 東京まで1時間で住宅費は3分の1
■昨年度の沼津市の移住者253人 7年前は9人
静岡県では昨年度、県外から県内への移住者が過去最多の2634人に上った。移住者が大幅に増えた自治体の1つが沼津市。移住者からは交通アクセスに加えて、「山、海、川と自然が豊かで意外と都会」とバランスの良さが好評となっている。官民一体の取り組み「ぬまづ暮らしオススメ隊」の存在も、移住者増加に大きく貢献しているという。
昨年度、静岡県内へ県外から移住してきた人数は前年度から766人増えて2634人となった。市町別では、人口の多い浜松市が390人で最多。次いで静岡市が255人だった。県庁所在地の静岡市に肉薄する3位が沼津市。前年度の5.6倍となる253人まで増えた。
静岡県は2015年度から、市町別の移住者数を公表している。公表初年度、沼津市の移住者は9人。そこから順調に人数を増やし、2019年度には94人となった。ただ、若者世帯の移住費用を支援する補助金の終了や新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年度からの2年間は40人台にとどまった。
そこから一気に253人まで移住者が急増した理由の1つには、2020年に発足した「ぬまづ暮らしオススメ隊」の存在があるという。沼津市移住定住推進室の栗田陽平さんは「官民連携で進めているぬまづ暮らしオススメ隊の皆さんに、移住者さんへの考え方を深めてもらっている部分が大きいです。コツコツ続けてきた取り組みが実を結んだと感じています」と話す。
■ぬまづ暮らしオススメ隊 計画から定住までトータルサポート
ぬまづ暮らしオススメ隊は移住に役立つ情報やサービスを提供する個人、団体、事業者で構成されており、移住の計画から実際の移住・定住までをトータルでサポートする。不動産会社や人材派遣会社、シェアオフィスを運営する団体や起業した元地域おこし協力隊など、多種多様なメンバーが集まっている。市がオススメ隊を広く発信することで、移住希望者は相談内容に応じて直接、オススメ隊のメンバーに連絡できる仕組みができている。
沼津市への移住者は約7割が首都圏からの人が占めている。ただ、相談者を含め、南は沖縄県から北は東北地方まで全国に移住を希望する人がいる。
沼津が移住先に選ばれる理由には、交通アクセスの良さがある。東海道新幹線が停車する三島駅までは電車で5分。乗り換えの時間を入れても、東京駅まで約1時間で到着する。東海道線が走っているため、浜松や愛知県など西側への移動も利便性が高い。東名高速道路を使えば都内まで車で1時間ほど。千葉、埼玉、神奈川から都内へ移動するよりも所要時間が短いケースも多い。
移住を考えるきっかけには「人混みを避けたい」、「慌ただしい生活に疲れた」といった理由が多い。だが、勤務先や実家が首都圏にあり、あまり遠くには離れられない人にとって沼津は絶好の場所と言える。車を少し走らせれば、山も海も川もある。平日は首都圏で仕事をして休日はゆっくりと自然で過ごす生活や、自然の中でテレワークする生活を実現できる。
沼津へ移住する人は20代から40代が占める割合が高い。単身者もファミリー層もいる。直接訪れる前までは田舎なイメージが強いが、生活圏内にコンビニやスーパーなどが揃っていることから「意外と都会」と感じる人が多いという。「ほどよく都会で、ほどよく田舎」な丁度良さが、沼津が移住先に選ばれる要因となっている。
■東京まで1時間 新築戸建ての相場は2600万円
沼津に移住してきた人からは他にも、「1年中、温暖で住みやすい」、「地元の人たちが温かい」、「保育施設や教育施設が充実している」などの声が上がっている。首都圏にはないメリットには「家賃」もある。築年数や地域にもよるが、大手不動産サイトのデータでは、沼津市の家賃の相場は2LDK~3DKで約6万3000円。新築戸建ては3LDK~4DKで約2600万円となっている。東京まで約1時間の移動距離で、住まいは都心の3分の1ほどなのは大きな魅力だろう。
沼津市では政府が進めている移住・就業支援金制度を導入している。首都圏から沼津市に移住し、静岡県のマッチングサイトを通じて就職した場合に支援金を交付する制度で、単身者は60万円、2人以上の世帯は100万円となっている。沼津市独自では、この支援金制度の利用者を対象に移住に伴う交通費を最大10万円補助している。
支援金や補助金を厚くすれば、移住者の増加につながるかもしれない。ただ、その原資は市民の税金となる。沼津市は税金を投入した大掛かりな施策ではなく、ぬまづ暮らしオススメ隊を中心とした地道な取り組みで移住者を増やしている。着実に成果を上げる中、移住定住推進室の栗田さんは今後の課題を口にする。
「移住者は増えていますが、移住者のコミュニティに市があまり関われていません。実際に移住した方々か得られる情報を活用して、移住の支援につなげていきたいと思っています。移住者には、ずっと沼津に住んできた地元の人では気付かない面があるはずです。どんな悩みを抱えているのかデータを蓄積することで、日々の移住相談業務や移住者の準備に生きると考えています」
移住事業は移住して終わりではない。沼津に移り住んだ人が移住して良かったと感じ、心地良く定住してもらうところにゴールがある。そのためには、一時的な“お金のバラマキ”で人を集めるのではなく、地域の魅力を地道に伝えることに大きな意味がある。
(鈴木 梨沙/Risa Suzuki)