2022/07/21
物価上昇「全て転嫁」の企業はわずか3% 値上げに踏み切れない企業の厳しい現実
■物価上昇「全て転嫁」の企業3%、「全く転嫁できてない」は27%
原材料費やエネルギー価格が高騰しても、商品やサービスの価格に転嫁できない企業の厳しい現状が浮き彫りとなった。静岡経済研究所が静岡県内の企業調査を実施した結果、約3割が「全く転嫁できていない」と回答。「全て転嫁済み」は約3%にとどまった。一方、県内の消費者は9割が値上がりを実感。消費者心理を懸念して、値上げに踏み切れない業種もある。
原材料・エネルギー価格が高騰する中、地域経済を調査・研究して情報提供する「静岡経済研究所」は、静岡県内の企業に対して価格転嫁状況に関するアンケートを行った。調査対象は県内に本社や事業所を置く企業577社で、195社から有効回答を得た。
アンケート結果によると、原材料、エネルギー、物流などの上昇に伴うコスト増加を製品や販売の価格に転嫁できているかを問われ、27.7%の企業が「全くできていない」と答えた。約7割は「転嫁済み」と回答しているものの、半数以上は「一部転嫁」にとどまり、「全て転嫁」は2.6%にすぎなかった。
業種別に見ると、大きな違いが出ている。大手企業が先頭を切って値上げを決めた「パルプ・紙加工品」は、9割以上が価格に転嫁している。一方、「ホテル・旅館業」は62.5%が「全く転嫁できていない」と回答している。
■ホテル関係者は苦悩「値上げすれば日帰り旅行が増える」
県内のホテルからは「値上げラッシュで消費者は出費を抑えようとする傾向が高まる中、宿泊料を値上げすれば日帰り旅行にしようと考える家庭が増える可能性がある」、「長引く新型コロナでホテル業界は大打撃を受けている。ようやく旅行をしようという雰囲気になり、書き入れ時のお盆、夏休みを迎える時に値上げをすれば水を差す形になる」といった声が上がっている。
電気やガス、食料品などの値上げはホテル・旅館業に直結する問題だが、提供するサービスの価格に転嫁できない厳しい状況が如実に表れている。
仕入れ値が上がった分、企業が商品やサービスを値上げするは当たり前と言えるが、受け入れられない消費者も少なくない。消費者心理を考慮して、値上げをためらう企業が多い。静岡経済研究所は、消費者の物価上昇への認識や、それに伴う行動の変化についても調査している。
■静岡県民の9割が値上がり実感 専門家はさらなる物価上昇を予想
4月中旬から下旬にかけて、県民1000人にアンケートを取った結果、約9割が値上がりを実感していた。そのうち、商品やサービスの価格が「多くで大きく値上がり」と回答したのは38.8%、「多くが値上がり」は33.4%と、合わせて7割を超えた。「特に感じない」と答えたのは1割にとどまっている。
今の価格から、どれくらい値上がりしたら購入や利用を控えるかをたずねる質問に、「電気・ガス」、「ガソリン・灯油」、「生鮮品」、「紙製品」は約22%と、生活のために許容せざるを得ない状況が示された。一方、「クリーニング」は14.1%、「インテリア」は16.1%、「家電製品」が17.1%と、“我慢できる”商品やサービスは値上げの許容範囲が狭くなっている。
静岡経済研究所は「足元では円安が急激に進行しているほか、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーや穀物価格などのさらなる上昇も予想され、県内企業を取り巻く環境は一層厳しさが増すとみられる」と分析している。
(SHIZUOKA Life編集部)