2022/07/29
動物園からゾウが消える?静岡市長の公約は絶望的?高すぎるハードルのワケ
■今年5月に1頭他界 日本平動物のアジアゾウは1頭に
動物園の象徴とも言えるゾウを直接見られなくなる日が来るかもしれない。静岡市の日本平動物園では5月にメスの「シャンティ」が死んだため、ゾウはメスの「ダンボ」1頭だけになった。田辺信宏市長は3選を果たした前回の市長選で「新たなゾウを迎え入れる」と公約に掲げているが、静岡市に限らず動物園にゾウを増やすのは高いハードルがある。
日本平動物園の献花台には、たくさんの花や手紙が手向けられている。5月、静岡市立日本平動物園の人気者だったメスのアジアゾウ・シャンティが天国へ旅立った。推定53歳だった。
シャンティは日本平動物園が開園した翌年の1970年にやってきた。静岡まつりのパレードに参加するなど、50年以上愛されたアイドル的存在だった。動物園のゾウは現在、シャンティと姉妹のように仲良くしていた「ダンボ」は1頭だけ。そのダンボも推定56歳と、国内で2番目に高齢なゾウとなっている。
アジアゾウの寿命は50~60年と言われている。動物園の象徴、ゾウの高齢化に静岡市も危機感を抱いていた。新たなゾウを迎え入れようと2018年から本格的に動き出し、有力な輸出元であるタイと交渉を重ねてきた。田辺市長も3選を果たした2019年の市長選で公約に掲げている。2020年には約27億円をかけて、タイから4頭を輸入し、新たなゾウ舎をつくる計画も明かしている。
■研究や繁殖目的以外は禁止、群れでの生活が条件 ハードル高いゾウの輸入
しかし、ゾウの輸入は簡単ではない。絶滅の恐れがある動物の国際取引に関する「ワシントン条約」では、ゾウの取引を研究や繁殖以外の目的で禁止している。さらに、世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、交渉のための渡航もできない状況が続いている。
田辺市長は昨年10月の会見で「決して諦めたわけではない」と意欲を示していたが、今年5月の会見では「最善を尽くしたい。ただし、難しいということは、ぜひご承知おきください」と現状の厳しさをにじませた。ゾウの輸入には、ゾウがストレスなく安心した環境で暮らせるよう、飼育する際には広い土地や群れでの生活を条件にされているという。
日本国内で近年、ゾウを輸入した動物園は数えるほどしかない。そのうちの1つは、札幌市にある円山動物園。2018年にミャンマーから4頭のゾウを輸入している。2007年にアジアゾウの花子が死んで園にゾウがいなくなってから、新たな1頭を求めて市民が署名を集めて市長に提出。市が輸入を検討してから約8年を経て実現した。購入となるとワシントン条約が壁となるため、シマウマ、キリン、フラミンゴなどと交換する“裏技”を使ったという。
日本平動物園は未就学児が入園無料、小・中学生は150円、高校生以上でも620円と家族連れには特にありがたい料金で、1日中楽しめる。レッサーパンダの聖地として知られているが、ゾウを楽しみにしている子どもたちも多い。新しいゾウを迎え入れようと大人たちが知恵をしぼっているが、厳しい現実に直面している。
(SHIZUOKA Life編集部)