2023/12/05
プロ顔負けの仕上がり 細部まで遊び心や工夫詰まった情報誌 焼津市の中学生が作成
■総合的な学習の時間活用 焼津市の情報誌「やいっち」
何気なく手に取った人は企業や団体が発行している情報誌だと認識するだろう。静岡県焼津市にある豊田中学校の2年生が、地元の店を紹介する情報誌「やいっち」を作成した。生徒たちがデザインや取材など全てを手掛け、中学生がつくったとは思えない仕上がりとなっている。
マグロやカツオで知られる港町を表現した表紙が目を引く。情報誌のタイトル「やいっち」は、「焼津市」と地元の言葉で私たちを意味する「うちっち」を組み合わせた。魚をデザインした「や」の文字、魚が話しているような吹き出しと細かいところまでこだわりが詰まっている。
情報誌をつくったのは、焼津市立豊田中学校2年生の生徒たち。生徒が自発的に学ぶ「総合的な学習の時間」を活用して、地域の魅力を発信しようと取り組んだ。「やいっち」には、JR焼津駅や西焼津駅近くにある40の店の情報が掲載されている。飲食店や婦人服店、ふとん店や花屋などジャンルは幅広い。5クラスある2年生の各学級で8つの班をつくり、1つの班が1店舗ずつ担当。店の特徴を文章と写真で伝え、割引きクーポンも付ける本格的な情報誌となっている。
せっかくつくるなら地域に貢献する1冊にしたい――。生徒の熱は高かった。フリーペーパーを発行する県内企業の担当者を中学校に招き、取材の仕方や原稿の書き方を学んだ。店や商品の魅力を引き出す写真や構成を考え、タブレットを使って編集していく。表紙も生徒が描き、各クラスから募ったネーミングの中から「やいっち」を投票で選んだ。原稿は各店舗に内容を確認してもらい、要望を反映した形に書き直した。
■新型コロナの影響で職場体験終了 地元を知る学習を模索
情報誌の作成は、昨年度の授業の延長線上にある。現在の中学2年生は昨年の社会の授業で、焼津駅前の商店街を中心に「変化し続けている焼津市は市民や観光客に魅力的なまちになっているのか」というテーマで地域調査を実施した。
その中で、自分たちが知らない地域の魅力に気付き、その魅力をより多くの人に知ってほしい気持ちが強くなったという。総合的な学習の時間を担当した社会科教師の小長谷留美子さんは「新型コロナの影響を受け、今まで行っていた職場体験を行わなくなりました。そのような中で、今の2年生は1年生の時の学習を生かす取り組みや地域とのつながりを生む方法を考えてきました」と説明する。
総合的な学習の時間は年間70コマと決まっている。年間を通して進路学習の時間も計画されているため、情報誌の完成まで逆算してスケジュールを組む必要がある。生徒たちは限られた文字数で店の情報を伝えることや情報誌全体に統一感を出すことに苦労しながら作業を進めた。完成が近づいた時、大きな発見があった。小長谷さんが語る。
「私も子どもたちもパンフレットをつくって、お店に置いてもらえば情報を発信できると思っていました。でも、情報誌に気付いた人がページをめくり、お店に行って初めて地域活性化につながります。『情報誌をつくることではなく、情報誌を通じてお店に行ってもらうことが目的』と生徒と共有し、私自身の勉強にもなりました」
■手に取ってもらう工夫 500冊全てに手書きメッセージ
どうすれば情報誌を手に取ってもらえるのか。生徒たちは授業で話し合った結果、発行した500冊全ての表紙に手書きのメッセージを付けることにした。「誰もがふらっと訪れられる場所を紹介しています」、「豊田中の生徒がつくりました」、「クーポンが付いています」。メッセージ付きの情報誌は掲載に協力した店からも好評だった。
自分たちが住むまちの魅力を発信する取り組みは、生徒たちの意識も変えた。小長谷さんが社会の授業で北海道について学習した際、生徒からは「北海道の都市は人気ランキングの上位に入っているけど、焼津市と何が違うんだろう」といった声が上がった。情報誌をつくった経験が他の地域への興味や、地元への愛着につながっている。情報誌で取材した店を実際に利用した生徒もいたという。
まちの魅力発信へ。中学生の発想力やエネルギーが地域に活力を生み出している。
(間 淳/Jun Aida)