2022/08/02
怠けているように見えても勉強に集中している 子どもに対する大人の誤解と集中力の高め方
■学習中に怠けて見えるのは「注意力の分配」に原因
勉強する時の姿勢が悪くても、子どもたちは決して集中していないわけではない。原因は「注意の分配」にある。注意の分配をコントロールすれば、学習への集中力は高められるという。
学校の授業や家庭学習で子どもたちの姿勢が悪く、怠けているように見える時がある。だが、実際には授業にしっかりと耳を傾けていたり、宿題に集中して取り組んだりしているケースがあるという。静岡市で子どもの学習を支援する教室「まなびルーム ポラリス」を運営する臨床心理士の澳塩渚さんは、こう話す。
「怠けているように見える子どもには理由があります。注意をいくつかの刺激に分配すると、1つのところに対する注意の量は下がります。子どものうちは注意の分配が上手くできない場合が多いです」
澳塩さんによると、人間には集中できる全体の分量「注意の総量」が決まっている。心理学では音、光、臭いなど様々な刺激に注意を向けることを「注意」と言う。求められているところに注意を向け続けることができず、様々な方向に分散してしまうと、注意力散漫の状態「注意の分配」となる。つまり、集中や注意自体はしていても必要なところへ向いていないため、集中していないように見える。
子どもは注意の分配が大人ほど上手くできないため、怠けて見える場合がある。例えば学校の授業では「姿勢を正して席に座る」、「教師の話に耳を傾ける」、「正確に板書する」、「自分の意見を考える」など、同時に複数の作業が求められる。注意の分配が上手くいかないと、教師の話や板書に注意が偏り、姿勢が悪くなる可能性がある。この場合、座り方が良くないからといって、授業を聞いていないわけではないのだ。
■重要度の高くない刺激をオフにすると宿題への集中力アップ
大人でも社内の様子を見ながら電話対応したり、メモを取りながら電話をしたりしていると、相手の話を聞き逃す時がある。これは注意の分配が上手くできていないためだ。日常生活では音や光、臭いや気温など、様々な感覚や情報を得ながら、集中が必要なメインチャンネルと、重要度の低いサブチャンネルを無意識に切り替えている。
まだチャンネルの切り替えが苦手な子どもに対しては、重要度の高くない刺激をオフにすれば、必要なところへ集中しやすくなる。自宅で宿題に集中できない場合は、周りの音をシャットアウトするイヤマフや耳栓をしたり、視界に余分なものが入らないように衝立をしたりして、必要な情報に注意を向けやすくする。
澳塩さんは「注意の総量を増やす方法は現時点で特定されていないので、注意の使い方を知ることが大切です。周りの刺激や情報を減らすと、今やるべきことに注意が向きやすくなります」と語る。姿勢が悪く怠けているように見える子どもは、必ずしも学習に集中していないわけではない。大人と子どもでは注意を上手に切り替えていく力に差があることを、教師や保護者は知っておく必要がある。
(間 淳/Jun Aida)