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2024/02/10

サッカーのまちにバスケットを広げる “二刀流”の元プロ選手 0から1にする挑戦

バスケットスクールの運営と会社員の二足の草鞋を履く大澤さん

■元ベルテックス静岡・大澤歩氏 バスケスクール開校

成功も失敗も、プレーもコートを離れた時の時間も、無駄な経験はない。ベルテックス静岡でもプレーした、静岡市出身の元プロバスケットボール選手・大澤歩さんはセカンドキャリアで二足の草鞋を履いている。バスケットの普及活動と元アスリートの支援。どちらとも、現役時代の経験や人脈がベースになっている。【全3回の3回目】

 

自身のバスケット人生を「雑草」と表現する大澤さんは現役時代、人一倍の経験をしてきた。大学4年生の時に入団が内定していたプロチームとの話がなくなり、その後に入団した1年目の所属チームは運営母体の経営悪化によって解散した。その苦難がユニホームを脱いだ今、財産になっている。

 

セカンドキャリアも王道ではなかった。険しい道に見える選択は信念を貫く大澤さんらしい。大澤さんほどのキャリアであれば、引退後はクラブのスタッフになるケースが一般的な中、バスケットスクール「A’z BASKETBALL SCHOOL」を開校した。

 

静岡市にはサッカースクールが多い。ベルテックス静岡の存在で裾野が広がっているとはいえ、まだバスケットの競技人口は決して多くない。それでも、大澤さんに一切の迷いはなかった。

 

「自分でスクールを立ち上げて0を1にするのは、簡単ではないかもしれません。でも、元プロの自分がバスケット経験者に技術や知識を教えるのはもちろん、初心者に楽しさを伝えて競技人口を増やすことに意義があると思いました。ただ、あくまでもバスケットは人間形成のツールです。競技を通じて、人としての当たり前を伝えていくつもりです」

バスケットスクールでは初心者から経験者まで指導

■「子どもたちにチャンスを平等に与えるのが大人の役割」

引退後に指導者となる目標は、高校入学時から掲げていた。大澤さんが進学した静岡学園バスケット部の監督は実業団で選手としてプレーした後、高校教師になってバスケットを指導。大澤さんは恩師の姿に自身の将来を重ねていた。専修大学で世界史の教員免許を取得し、セカンドキャリアの準備も進めた。子どもたちにバスケットを教える希望は引退後も変わらなかったが「時代の流れもあって、自分でスクールを立ち上げる道を選びました」と軌道修正した。

 

スクールは小学生から高校生までを対象にしていて、初心者のクラスもある。部活に所属しながら個のスキルアップを目指す選手には、ドリブル、シュート、パスとワンランク上の技術や練習法を解説する。小学校低学年や初心者には、擬音語で表現したり、手本を見せたりして、できるだけ難しい言葉を使わず上手くなる楽しさを感じられる工夫を凝らしている。大澤さんにはスクールを通じて、伝えたい思いがある。

 

「バスケットの普及はもちろんですが、どの子どもにも上手くなるチャンスを平等につくりたいと思っています。チャンスをつかめるかどうかは子ども次第だとしても、チャンスを平等に与えるのが大人の役割だと考えています。バスケットに限らず、家庭の経済的な事情に左右されずに子どもたちが好きな習い事に熱中できる環境を静岡につくっていきたいです」

 

大澤さん自身、決して裕福ではない家庭で育ったという。6人兄弟の末っ子で、中学3年生の時に父を亡くしている。それでも、小学3年生でバスケットを始めた時から掲げたプロになる目標を実現させた。

パソコンスキルやビジネスマナーは現役引退後に習得

■現役時代の人脈が財産 地元企業で社員として勤務

何もないところから立ち上げたバスケットスクール。厳しい道を選択して、0を1にする達成感は現役時代に経験している。5年前、当時B2の香川ファイブアローズでプレーしていた大澤さんは、B3に新規参入したベルテックス静岡に移籍した。プロ選手として、力が衰えていない中でB2からB3にカテゴリーが変わることに葛藤もあったが、生まれ育った静岡市のチーム立ち上げに携われる喜びが勝った。

 

ベルテックス静岡に所属していた時に出会った人たちは、ユニホームを脱いでからも付き合いが深い。スクールのスポンサーには学生時代の先輩や、ベルテックス静岡の頃から応援していた企業がついている。

 

静岡市清水区に本社を置くフジ物産の山﨑伊佐子社長も、その1人だ。大澤さんは現在、フジ物産の社員として午後2時まで働き、夕方から自身が代表を務めるバスケットスクールで選手を指導している。

 

フジ物産ではアスリートの第2の人生「ネクストキャリア」をサポートする事業「Ath-up(アサップ)」を担当している。バスケットに限らず大澤さんのような元プロ選手や高校・大学までスポーツに打ち込んできた人と、スポーツ経験豊富な人材を求める企業をマッチングさせる役割。元アスリートと面談したり、企業と商談したりしている。

 

■会社員は未経験「変なプライドは必要ない」

初めて企業に所属して、メールの打ち方や名刺の渡し方といったビジネスマナーやパソコンの基本操作を1から勉強した。バスケットとは勝手が違うが、先輩や上司の力を借りて知識を吸収している。

 

「分からないことは何でも聞いています。バスケットではプロ選手でしたが、会社員は未経験です。質問や相談することは何も恥ずかしくありません。変なプライドは必要ないですから」

 

上手くできないことは原因を明らかにして、失敗を繰り返さない方法を考えるのはスポーツも同じ。あきらめずに粘り強く取り組む姿勢、行動力、考える習慣はアスリートが得意としている分野だ。大澤さんは「元プロ選手だった私がサポートするので、アスリートの気持ちが分かる部分があります。バスケットスクールもそうですが、自分だからこそ果たせる役割があると思っています」と語る。

 

バスケットでプロになった大澤さんは、引退後も選手時代の経験や人脈を生かしている。「選手の頃は苦しい経験もたくさんしてきましたが、今後につながる大切な時間だったと感じています。大人の背中で子どもたちは変化すると思っているので、バスケットに限らず自分の知識や経験を子どもたちに伝えていきたいです」。バスケットは人間形成のツール。子どもたちへのメッセージを体現している。

 

(間 淳/Jun Aida

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