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2024/02/24

球速や制球より重要な投手の能力 高校野球の新基準バットで高まる「勝負する意識」

■専門家が指摘「球速やコントロール磨くだけでは投手本位」

野球の研究や指導をしている東京農業大学教授の勝亦陽一さんが、掛川市で「科学的根拠に基づく投手の育成方法」をテーマに講演した。高校野球で新基準のバットが導入されたことから、勝亦さんは野球のスタイルが変わってくると予想。投手が試合で結果を残すためには、スピードやコントロールを向上させる以上に「打者と勝負する意識が大事になる」と強調した。

 

野球のパフォーマンスアップや呼吸の改善をサポートする掛川市のサロン「GFconditioning」は、静岡県内外から野球の専門家を招いたイベントを開催している。先月末には、富士市出身で東京農業大教授の勝亦陽一さんを講師に招いた。

 

勝亦さんは少年野球からプロ野球まで、幅広いカテゴリーで選手を指導している。野球を深く研究し、データに基づいた体の使い方や怪我の予防法を伝えている。今回の講演は小学5年生から大学生までの投手、または投手を目指す選手と保護者、指導者を対象に開かれた。勝亦さんは大半の投手が追求する球速や制球力の向上が、必ずしも結果につながるとは限らないと説いた。

 

「選手たちにどういう投手になりたいかを問うと、『球が速い』、『コントロールが良い』と返ってきます。それは大事な要素ですが、投手は打者と勝負します。球速やコントロールを磨くだけでは投手本位になってしまいます」

 

勝亦さんが投手に必要な要素として訴えるのは「打者と勝負する意識」。投手が満足のいく球でも、打者に狙われていれば安打にされる可能性は高くなる。一方、真ん中にスローボールを投げても、打者の頭にない球であればストライクやアウトを取れる確率は高くなる。バスケットボールのフリースローや陸上の100メートル走と違い、投球には相手がいるため個の能力を伸ばせば結果に直結するわけではないのだ。

投手のパフォーマンスアップについて講演した勝亦さん(右)

■バットの芯外す投球の大切さ 5センチで打球速度15キロの差

野球は速い球を投げる投手が必ずしも勝てる投手ではないところが難しさであり、おもしろさでもある。そのヒントとして、勝亦さんはバットに当たる場所と打球速度の関係を説明した。

 

「ドラフトで指名されるような選手の打球速度は150~160キロです。バットの芯から左右方向に5センチずれるだけで、打球速度は15キロ程度落ちます。バットに当たる場所が上下方向にずれると打球速度は一層落ちますし、ファウルや空振りも増えます。つまり、バットの芯を外す投球が大事になるわけです」

 

バットの芯を外す投球は今後、さらに重要度が高まっていくと勝亦さんは予測している。今春のセンバツから、高校野球に新基準のバットが導入されたためだ。従来の金属バットより反発が少なく、打球が飛ばなくなると言われている。勝亦さんによると、実際に新基準のバットを使っている高校球児や指導者からは「芯に当たった時の打球はあまり変わらないが、芯を外れると打球速度が落ちる」という声が上がっているという。

 

「投手はバットの芯を外す球を投げれば打ち取れるという考え方になっていくと考えられます。米国のように球を動かすタイプの投手が増えてくると思います」

 

米国では主流な変化球となっているカットボールやツーシームは、直球と同じような球速や軌道から打者の手元で小さく変化する。打者に直球だと判断してスイングさせ、バットの芯を外して凡打にする狙いがある。日本の金属バットは国際的に見ても反発が大きく、芯を外れても飛距離が出る傾向があったため、小さく変化する球は中学や高校野球で敬遠されがちだった。だが、バットが変われば投球スタイルも変化すると予想される。

勝亦さんは投手に大切あトレーニングやストレッチも解説

■球速や回転数アップが逆効果の可能性 平均以下は武器

また、勝亦さんは自分の特徴を把握せずに球速や回転数を上げると、希望とは反対の結果が出る可能性を指摘する。直球の球速が速く、回転数が突出した投手は打たれづらいのは間違いない。その理由は、平均的な球速や回転数を上回っているためだ。打者は平均的な投手を想定して打席に入っているため、予測と違う投球にはタイミングを合わせづらい。

 

この考え方に基づくと、平均よりも大幅に遅い球速や少ない回転数も投手の武器になる。勝亦さんは、こう話す。

 

「球速も回転数も平均的な場合、打者には見たことがある球となります。回転数は多いところに目が行きがちですが、回転数が少ないと打者は予想よりも球が沈むので打ちにくく感じます。球速に対して回転数が少なくゴロを打たせて試合をつくっている投手が、空振りを増やすために球速や回転数を上げた結果、平均的な投球になって打たれてしまうケースは少なくありません」

 

自分の特徴を理解しておかないと、努力した結果、良さが消えてしまう可能性がある。勝亦さんは講演に参加した選手たちに「速い球を投げたいと考えることは大事ですが、打者を観察したり、人とは違う自分の武器を探して生かす方法を考えたりすることも重要です」とアドバイスした。理想とする球を投げれば必ず打者を抑えられるわけではない。打者がタイミングを取りづらいフォームや打者の心理を読む投球など、工夫次第で可能性が広がるところに投球の奥深さがある。

 

「GFconditioning」では3月15日、大阪桐蔭高校の野球部で20年近くトレーナーを務めた濱田太朗さんを講師に招いたイベントを開催する。「成長し続ける野球選手になるには~心と身体の共通点~」をテーマに、学生や指導者ら野球に携わっている人は誰でも参加できる。

 

(間 淳/Jun Aida

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