2024/04/14
首都圏からの利便性+非日常の時間を両立 伊豆高原が目指すワーケーションの聖地
■伊東市にある伊豆高原 豊かな自然にアクティビティも充実
「首都圏からの近さ」と「非日常の時間」。相反して見える2つの要素を両立させ、新たな働き方や企業の課題解決をサポートする。静岡県伊東市で「ワーケーション」の需要が高まっている。
【写真】「イヌ高原」と呼ばれるほど犬に優しいまちとしても有名な伊豆高原
観光地として人気の高い伊豆。伊豆の東側にあることに由来する伊東市は、ユネスコ世界ジオパークに認定された豊かな自然やマリンスポーツで知られている。
恵まれた観光資源を活用して訪問者を増やすため、伊東市は2021年度から「ワーケーション」に取り組んでいる。ワーケーションは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた言葉で、働きながら休暇を楽しむ働き方。また、日常と離れた場所で仕事をすることで集中力や思考力を高める狙いもある。
伊東市は首都圏からのアクセスが良く、宿泊施設も多い。自然豊かで温泉やアクティビティも充実しているため、ワーケーションに適した場所と言える。
■企業向けプログラム 非日常を重視した内容に変更
だが、首都圏からの近さが非日常という点ではデメリットになっていた。伊東市とともにワーケーション促進に取り組む伊豆高原観光オフィス(IKO)の専務理事・利岡正基さんは「伊東に到着後すぐに仕事や研修に入ると日常の延長になってしまい、頭や気持ちの切り替えが上手くできない部分がありました。中には、景勝地を訪問せずに仕事をするだけで終わってしまうケースもありました」と話す。
そこで、企業向けプログラムの充実を図っている。例えば、自然に触れる時間を滞在時間の10%以上設け、伊東市の象徴となっている大室山の登頂体験を全てのプログラムに盛り込んだ。伊東市出身の杉村英孝さんが東京パラリンピックで金メダルを獲得したこともあり、地元で盛んなボッチャもアイスブレイクに取り入れた。
伊東市の特徴を打ち出したワーケーションは企業の目に留まった。昨年度は国土交通省官公庁が公募した「企業ニーズに即したワーケーション推進に向けた実証事業」の受け手地域枠に採択され、モニターツアーの参加者や2泊以上の個人の利用者が大幅に増えた。
利岡さんは「大室山という地域資源を活用して山頂での自分を見つめる時間、メンバーそれぞれが感じたことを言語化するマインドセットプログラムの開発によって集中力や創造力の向上につながりました。企業向けプログラムが多彩で柔軟に提供できるところも伊東市のメリットだと考えています」と語る。実際に伊東市でワーケーションを実施した企業からは次のような感想が寄せられている。
■参加者の約9割が「満足」 新たなつながりも創出
「初めてワーケーションに参加しましたが、仕事とアクティビティのバランスが良く、仕事に集中することができました。また、伊豆という場所も良く、非常にリフレッシュできました」
「仕事も余暇も存分に堪能することができました。新規ビジネス開発というゴールが見えない世界に取り組んでいることもあり、いつの間にか摩耗していた心と体をワーケーションでリフレッシュするなど、非常に良い時間を過ごすことができました。何となく頭の中で考えていた効果より、たくさんの価値を得ることができました」
伊豆高原観光オフィスのアンケートによると、ワーケーション参加者の89%が「とても満足」または「満足」と回答している。また、全体の71%が「参加して自分自身に変化があった」と答えている。さらに、ワーケーションを実施した企業と伊東市の事業者や住民に新たなつながりが生まれ、継続的な関係も構築されている。ワーケーションを通じて、新規事業の創造や地域の課題解決も期待される。
訪問者が増えれば、地元への経済効果もある。伊豆高原観光オフィスや伊東市は「ワーケーションのまち」をPRし、訪問者の増加や持続可能なまちづくりを目指していく。
(間 淳/Jun Aida)