2024/05/05
一緒に働きたい人材は年間で数人…本で得た知識と実践は違う 即戦力育てる予備校開校
■iZooの白輪園長 2020年度にアニマルキーパーズカレッジ開校
貴重なお金と時間を無駄にするのは、学生も生物も不幸になる。爬虫類の専門家で河津町の体感型動物園「iZoo」の白輪剛史園長の考えはシンプルだった。「理想の場所がないなら自分でつくれば良い」。2020年度に東伊豆町で動物園予備校「アニマルキーパーズカレッジ」を開校したのは、生物に関わる仕事に就きたい学生が実践に生きる知識を学ぶ場を提供するためだった。
iZooは開園から11年が経ちました。毎年、iZooで働きたいという専門学校生や大学生が研修に来ます。生物に携わる仕事に興味を持ってもらえること自体は、すごくうれしいです。ただ、年間50人くらいが研修に来て、一緒に働きたいと思える人材は多くても2~3人です。残念ながら、ほしい人材がたくさんいて誰にしようか悩むようなことはありません。
せっかくiZooで働きたいと思ってもらっても、大半の人とは縁がないわけです。中には、年間200万円以上の学費をかけて学校に通っている学生もいます。これでは、お金と時間を費やした意味がなく、学生がかわいそうです。
学生たちが、お金も時間も有効活用するにはどうしたら良いのか。もう少し学校側が違うポイントを生徒に教えれば良いのにと感じていました。生物を飼育する現場の視点で見ると、学生たちには物足りなさを感じます。生態を知っているわけでも、生物の扱い方を知っているわけでもありません。学生なので仕方がない部分はありますが、実践に生きる知識が乏しいんです。本で知った知識を丸暗記してひけらかしても、実際に生物を飼育する現場では役に立ちません。
■講師は現場を知る専門家 実践に生きる独自のプログラム
実践に即した授業をする学校をいつかつくりたいと思っていた時、東伊豆町で学校に適した施設が購入できるチャンスを得ました。私は、iZooをはじめとする動物園や水族館で即戦力になる人材を育てれば業界に貢献できると考え、施設を購入しました。
2020年度に開校した動物園予備校「アニマルキーパーズカレッジ」は、実践的なプログラムを組んでいます。動物の飼育や繁殖だけではなく、動物の販売やイベントでの展示、動画配信やショーパフォーマンスに必要なスキルなどを学びます。全ての講師が動物を世話したり、扱ったりするなど現場を知っている専門家です。私も毎週月曜日に教壇に立っています。
それぞれの講師が現場で学び、実践で生きる知識を学生に伝えます。皆さんは中学校や高校で習ったルートの計算や微分積分を社会に出てから使っていますか?そういう勉強が無駄とは言いません。ただ、それよりも先に学ぶべきことがあると私は考えています。動物に関しても同じで、アニマルキーパーズカレッジでは実践で役立つ知識を優先的に教えています。
私が爬虫類を専門にしていることから誤解されがちですが、アニマルキーパーズカレッジは爬虫類だけを学ぶ学校ではありません。爬虫類はもちろん、動物園や水族館でしか見られない生物を専門にしています。メダカやサソリのような小さな生物も、ペンギンやオットセイといった大きな生物も学ぶ対象です。犬や猫のようなペットではない、野生動物というくくりです。
■都市部の学生とは“本気度が違う” 卒業後は生物に関わる仕事へ
動物の学校に通う学生は全国にたくさんいますが、アニマルキーパーズカレッジを選ぶ学生はモチベーションが高いです。学校は東伊豆町の山間部にあるため、都市部のように学校が終わってから遊びに行く場所はありません。本当に生物が好きな学生ではないと、2年間通えないと思います。実際、卒業後に生物と無関係な仕事に就く学生はほとんどいません。
生物が好きな気持ちは知識を吸収する上でも、仕事に就く時も一番大事な要素になります。少し好きというくらいでは厳しい。好きと言い切れる愛情や熱意が必要です。
最初は誰でも分からないことばかりなので、詳しくないのは当たり前です。動物園や水族館の仕事は生物から教わることばかりなので、「本で読んだから知っている」というスタンスの人は成長できません。少なくとも、私は採用しません。知っているはずがないからです。
私は小学生の頃から爬虫類に興味を持っていますが、まだまだ知らないことだらけです。見たことがない爬虫類は世界中にいます。生物と接していると、毎日新鮮な驚きや発見があります。爬虫類や仕事について理解したと思ったことはありませんし、これからも学び続けていきます。
<プロフィール>
白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。