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2024/05/10

低反発バットで強豪私立に勝つチャンス拡大 公立進学校野球部で三塁→右翼に転向のワケ

■長打や大差の試合展開減少 守備力や小技の重要性高まる

今春のセンバツから高校野球は低反発の新基準バットに完全移行された。静岡県内の指導者や球児たちからも「打球が失速する」、「野球のスタイルが変わる」といった声が上がっている。バットの変更は公立の進学校にとって追い風になるのか、逆風になるのか。静岡県東部屈指の進学校、富士高校は「私立の強豪に勝つチャンス」と前向きに捉えている。

 

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従来の金属バットより飛ばないとされる新基準バットは、球児に打球がぶつかって怪我をするリスクを下げる目的で導入された。日本高校野球連盟の検証では、飛距離が約5メートル落ちるとされる。

 

静岡県の公式戦でも、5月5日に決勝戦が行われた春季大会から新基準バットに統一された。例年よりも長打や大差の試合展開が減少。優勝した加藤学園に象徴されるように、上位に進出したチームは犠打や四球を絡めて得点し、守り勝つスタイルが目立った。

 

新基準バットによって、県内の高校野球の勢力図にどのような影響が表れるのか。私立と比べて練習時間や環境が制限される傾向にある公立高校は、プラスに捉えるチームが多い。県東部有数の進学校で知られる富士高校も、その1つ。チームを率いる稲木恵介監督は、こう話す。

 

「スイング量や体力づくりの面では私立に太刀打ちできません。これまではバットの芯を外した投球をしても、多少強引なスイングで安打や長打にされるケースがありました。低反発バットになって、力で圧倒されるケースが減ると感じています。私たちのチームは戦術や相手の隙を突く戦い方で勝利を目指しているので、ワンチャンスをものにすれば私立とも勝負になると思っています」

地元の学童野球チームと交流する富士高校野球部

■三塁→右翼にコンバート バット変更でライトゴロのチャンス

稲木監督は練習試合や春季大会を通じて、全体的に打球速度が落ちたと感じている。今まで外野の間を抜けていた打球に外野手が追いつく場面が増えたという。普段の練習では、犠打や内野守備の送球といった細かなプレーの精度を高める意識を強くしている。稲木監督は「送球ミスによる出塁や四球が決勝点の要因になる確率が高くなります。試合に勝つには、自滅を防ぐことがキーになるのは確かです」と話す。

 

新基準バットによる影響を見越し、守備位置の変更にも着手した。バットが導入される前の昨秋、新チーム始動のタイミングで三塁手を右翼へコンバート。稲木監督が意図を説明する。

 

「低反発バットでライトゴロのチャンスが生まれやすくなりました。長い距離を送球する今までの概念だけではなく、内野手のフィールディングのようなイメージで短い距離を素早く送球する技術も外野手には重要になると考えています」

 

新基準バットで打球の速度や飛距離が落ちたことにより、外野手が前に守るケースは増えた。今春のセンバツでも、今までの前進守備に近いポジションを定位置にするチームもがあった。状況によっては、高校野球であってもライトゴロを十分に狙える。実際、富士高校は今春の県大会や練習試合でライトゴロを取っている。

富士山を望みながら練習できる富士高校のグラウンド

■2死満塁の守備 “安打”で無失点にしのげる可能性

他にも外野手の動きが変わると想定される場面がある。例えば、2死満塁の守備で、強い打球がセンター前に転がった際、これまでよりも極端に前進していた中堅手がゴロを捕球し、セカンドでフォースアウトを取って無失点でしのげるチャンスがある。今までの守備位置であれば、中堅手は二塁ランナーの生還を防ぐためホームに送球していたプレーとは大きな差が生まれる。

 

稲木監督は新基準バットの導入で、試合を想定した練習や状況判断の重要性が高まると考えている。練習の工夫や戦い方次第では、練習の環境や時間が限られる公立の進学校によるジャイアントキリングの可能性は拡大する。

 

(間 淳/Jun Aida

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