2022/09/09
子どもに勉強させるためにご褒美はNG?正解? 静岡市の教育専門家が子育ての悩み解決
■「勉強をやらせる手段の1つがご褒美でも問題なし」
勉強しなさい――小学生以上の子どもを持つ保護者であれば、一度は口にしている言葉だろう。そして、ご褒美を条件に勉強させる経験を大半の保護者がしているのではないだろうか。「アメ」をぶら下げて勉強を促すのは、果たして正解なのか。教育の専門家は「アメ」が悪いことではなく、ご褒美の手段はモノだけに限らないと訴える。
勉強するように何度促しても、子どもが机に向かわない。そんな時、勉強したら「ゲームの時間を伸ばす」、「おやつを増やす」といったご褒美を条件に、子どもと交渉する保護者は少なくないだろう。だが、こうした「アメ」をぶら下げる方法に罪悪感を抱く保護者は少なくない。
アメを使って子どもの行動を促すのは間違いなのか。静岡市で子どもの学習を支援する教室「まなびルーム ポラリス」を運営する臨床心理士の澳塩渚さんは、「間違いではありません」と話す。
「大人も給料をもらえなければ働きません。ただ、大人は報酬が後でも耐えられます。子どもに勉強をやらせる手段の1つがご褒美でも問題ありません」
■「内発的」と「外発的」 勉強を始める2つの動機
何かを始める時には「内発的」と「外発的」、2つの動機がある。「内発的動機」は興味や意欲といった内面に沸き起こった動機で、「楽しいからやる」というもの。一方、「外発的動機」は行動そのものに目標や目的がなく、報酬や罰則といった外部から動機付けされるものを指す。
子どもがゲームをするのは内発的動機、ゲーム時間を増やす条件で勉強させるのは外発的動機にあたる。一見、外発的動機は好ましくないように感じる。
しかし、澳塩さんは「外発的動機が悪いわけではありません。『勉強しなさい』という外発的動機は物事を始めるきっかけで、内発的動機の楽しみや達成感に結び付けていくのが大事です。子どもたちは、自分がやっていることが色んな物事につながっていると知ったり、できるようになった感覚を持ったりすると楽しさを感じます」と説明する。
■ご褒美は言葉も大切 保護者が注意すべきは「子どもに合わない勉強法」
ご褒美をきっかけに子どもたちは勉強自体の楽しさや意義を知れば、ご褒美がなくなっても勉強するようになる。ご褒美は必ずしも報酬である必要はない。「褒める」ことも、子どもたちの動機になるという。澳塩さんは「その子がうれしいと感じる部分を褒めるのが大切。大人から見たら大したことではなくても、『すごいね』と言葉にするのは重要です」と話す。
勉強に限らず、普段から褒められている子どもは「やればできるかもしれない」という感情が育つ。「口笛が吹けるようになった」、「ゲームが上手い」といった些細なことでも自分の成長を実感すると、「勉強もやればできるかもしれない」と考えるようになるという。
一方、保護者が最も避けなければいけないのは、子どもに合わない方法で勉強させること。勉強自体に全く関心や意欲を持てないやり方を続けたりしていると、子どもは「無力感」を覚える。勉強しても成果が出ないと「勉強しても無駄」と感じ、さらには何事に対しても自主的に取り組まなくなってしまう。澳塩さんは「子どもが無力感を学習するのが一番怖い」と指摘する。
ご褒美を否定的に捉える必要はない。選択する「アメ」や褒め言葉次第で、子どもたちが勉強の楽しさを知り、自主的に机に向かうきっかけとなる。
(間 淳/Jun Aida)