2024/06/10
「ととのう」がサウナの全てではない 水と人に恵まれた静岡県のポテンシャル
■“聖地・しきじ”以外にも 静岡県には特徴あるサウナ多数
ブームの要因となった「ととのう」はサウナの特長ではあるが、全てではない。サウナは自然や食などと組み合わせることで可能性が広がっていく。サウナに不可欠な「水」と訪問客を魅了する「人」に恵まれた静岡県は、サウナ文化が根付く素地があるという。
食や自然、ビジネスやウェルネス サウナの潜在能力を広げる取り組みを進める静岡サウナ協議会
他のジャンルと掛け合わせると、サウナは相乗効果をもたらす。その可能性に着目する一般社団法人「静岡サウナ協議会(We SAUNA Shizuoka)」は、自然や食、観光やウェルネスなど幅広い分野とサウナを組み合わせた取り組みを進めている。サウナを通じた地域活性化を描く。
静岡県のサウナと言えば、静岡市にある「サウナしきじ」の名前を挙げる人は多いだろう。「ととのう」ブームの火付け役となった“聖地”には、県内外から人が集まる。サウナしきじが人々を惹きつける場所であることに異論はない。ただ、県内には他にも、広く発信したいサウナ施設がある。静岡サウナ協議会の発起人、神田主税理事が語る。
「ゆっくりと体を温めたり、外気を導入して1時間くらい読書したり、サウナの入り方は様々です。ととのう以外の楽しみ方も広めていきたいです。サウナは相性の良い分野が多いので、色んな要素を掛け合わせることで新たな価値をつくり出せると思っています」
■「静岡のサウナは地域を元気にする」 静岡サウナ協議会立ち上げ
神田理事の日常にサウナが加わったのは4年ほど前だった。北海道の牧場の中にあるプライベートサウナに、このサウナの経営者と一緒に入った。これまでサウナは閉塞感のある場所で熱さに耐え、水風呂の冷たさを我慢するものだと認識していた。しかし、考え方が一変したという。
「目の前に広がる北海道の大自然が美しくて、水風呂も湧き水で気持ち良かったです。サウナに入りながらの会話やサウナ後に飲んだ牛乳も思い出深く、まるきっかけになりました」
浜松市出身で現在は三島に住んでいる神田理事は、県内に目を向けると特徴のあるサウナがたくさんあると気付いた。さらに、静岡県はサウナで重要な要素となる「水」に恵まれ、サウナと相性の良い自然や食なども豊富。県外の友人を静岡県のサウナに案内すると、「サウナしきじ以外にも、こんなに素晴らしいサウナがあるとは驚いた」、「どこのサウナも水が良い。食事や観光も楽しめるので、また来たいところばかり」と好評だった。神田理事は「静岡のサウナは地域を元気にするポテンシャルがあると感じました」と静岡サウナ協議会の立ち上げに動いた。
静岡県内には東から西まで、それぞれ特徴を打ち出したサウナがある。例えば、裾野市にある「サーマルクライムスタジオ富士」は日本、フィンランド、ドイツなど6種類のサウナを備える。アウトドアエコサウナは自然を最大限に感じるコンセプトで、日光を浴びながら雨水を利用したロウリュを体験し、夜は星空を満喫できる。
■「サウナは前菜、水風呂がメインディッシュ」 サウナは水が命
島田市の「石畳茶屋-縁en-」では昼に富士山、夜は焚火を囲んでの外気浴を楽しめる。地元のお茶を使ったロウリュや飲める水風呂も評判が良い。
浜松市にある「サウナ天竜」は貸し切りのテントサウナを特徴としている。サウナのすぐ隣を流れる阿多古川が水風呂代わりとなっている。オーナーによるアウフグースサービス(ロウリュによる蒸気をタオルなどであおぐ方法)も好評だ。
この3つのサウナも含めて、静岡県のサウナに共通するのは「水」。県内にあるサウナのオーナーの中には「サウナは前菜、水風呂がメインディッシュ、外気浴がデザート」と表現するほど、水の役割は大きい。
そして、静岡は水に加えて「人」にも恵まれているという。静岡のサウナにあふれるオリジナリティは、オーナーをはじめとする関係者の魅力を映し出している。神田理事が言う。
「サウナのリピーターは、施設の方々の人間性に魅了されている部分も大きいです。個性的な方やバイタリティに満ちた方ばかりで、私も話をしたくて訪れている面があります。サウナへの愛情が深く、静岡のサウナカルチャーを発信したいと思っている方が多いです」
■食や自然に交通の利便性 静岡県に秘めたサウナの可能性
静岡県には“地の利”もある。首都圏や中京圏に近く、それでいて都会にはない豊かな自然に身を置ける。気分転換したり、アイデアを練ったりする目的で会社経営者やクリエーターが訪れる。人が集まれば、新たな発想やつながりが生まれ、ビジネスチャンスにもなる。
静岡サウナ協議会は、こうした静岡県に秘めているサウナの可能性を広げる役割を担う。二村昌輝事務局長は「静岡にはサウナ文化が発展する要素がある」と自信を見せる。
「サウナで重要な水のアドバンテージに加えて、静岡県には景観、食、スポーツなどサウナと掛け合わせられる価値があります。設立の記者会見で川井敏行代表理事が話したように、ポテンシャルの高い点と点をつないで線や面にしていくことが協議会の役割だと思っています。人を含めたサウナの独自カルチャーをつくっていきたいです」
食を見ても、静岡県にはお茶やミカンだけではなく、野菜や果物、魚介類や肉も充実している。富士山や駿河湾をはじめ、景観にも恵まれている。県の課題となっているインバウンドの拡大にも、サウナの活用は有効だろう。サウナしきじに行って、炭焼きレストランさわやかで食事する楽しみ方は選択肢の1つ。静岡サウナ協議会がハブとなって、静岡県のサウナ文化を確立する。
(間 淳/Jun Aida)