2022/09/11
高校野球の歴史に残る「甲子園史上最高の二塁手」がデザイン アウトを取るためのグラブ
■センバツ優勝、春夏計4度の甲子園 元常葉菊川・町田友潤さん監修のグラブ
焼津市にある野球のグラブやスパイクを修理する専門店「Re:Birth」が開発したグラブが話題となっている。監修したのは、常葉菊川(現:常葉大菊川)高校で春夏合わせて4度の甲子園出場を果たした町田友潤さん。「甲子園史上最高の二塁手」と呼ばれた名手のこだわりが詰まっている。
現役を引退しても、野球とのかかわりは断っていない。野球を通じて出会った人とのつながりは深く、野球を共通語に新たな出会いも生まれている。常葉菊川で2007年の選抜高校野球大会に優勝するなど、春夏合わせて4度聖地に立った町田さんは現在、児童福祉の仕事をしている。浜松市で放課後等デイサービスと児童発達支援の事業所を計4つ経営。食事、着替え、排せつなど子どもたちの自立訓練を従業員とともにサポートしている。
社会人野球チームのヤマハでプレーしていた2013年に現役を引退し、選手としての歩みは終えた。ただ、町田さんの人生に野球は欠かせない。元横浜高校の主将で同級生の小川健太さんを中心に活動している、経済的に恵まれない子どもにグラブを無償で提供する取り組みに参加。浜松市の女子野球チームで臨時コーチを務めることもある。そして、野球を通して知り合った縁で、グラブの開発依頼を受けた。
「アウトを取るためのグラブがコンセプトです。手と一体化している感覚で、ストレスなく打球を追えます」
■グラブには「魔術師」 伝説のプレーをイメージしたシルエットも
まず、大切にしたのは大きさと軽さ。手と一体化しているようなフィット感を追求し「打球を追っている時にグラブを重く感じたり、手に馴染んでいなかったりすると、集中できなくなります」と話す。手が小さい町田さんに合わせたグラブのサイズになっているため、女子野球の選手からも注文が入っている。
もう1つの特徴は、グラブの芯。芯は人間の体で例えるならば骨にあたる部分で、芯によってグラブの硬さは変わる。町田さんは柔らかく捕球し、スムーズに握り替えて送球するために、「しっかりした芯」を好む。監修したグラブにも反映した。
細かい部分にも、こだわった。グラブに記された文字「Mago」はスペイン語で「魔術師」を意味する。グラブの捕球面には野手がダイビングキャッチするシルエットをデザイン。高校野球ファンならピンとくる、あのプレーをイメージしたものだ。
2008年の全国高校野球選手権。常葉菊川は準決勝で浦添商と対戦した。5点をリードしていた常葉菊川は6回、1死満塁のピンチを招いた。浦添商の打者が放った強烈なライナーは、誰もがセンターに抜けると思ったが、二塁手の町田さんがダイビングキャッチ。倒れ込んだままセカンドベースにグラブでタッチし、併殺でピンチを脱した。抜けていれば相手に試合の流れは一気に傾き、逆転されていたかもしれない展開。町田さんの守備が勝利を引き寄せた。
「甲子園史上最高の二塁手」と評される町田さんが守備で最優先するのは、「最もアウトの確率が高いプレーの選択」。無理に打球の正面に入るよりも、送球までを考えて逆シングルで捕球したり、見た目は不格好でもアウトにする判断をしたりしていた。今回、開発に携わったグラブは、まさに町田さんの考えを形にしている。
グラブを監修しても、町田さんへの報酬はない。「自分の理想とするグラブができ上がるだけで幸せです。今までお世話になった人たちへの恩返しや地域貢献になればと思っています」。自らが監修したグラブをきっかけに野球を好きになる子どもが増え、甲子園を沸かせる内野手の誕生を願っている。
(間 淳/Jun Aida)