2022/10/13
「仕事がほしいとは言わない」 静岡市の女性起業家が友人の死から学んだ営業の極意
■保険会社勤務時代に友人が29歳で病死 営業の考え方や方法見直し
静岡市でシングルマザーによる仕事代行事業を展開している「Vario’s合同会社」の代表・石光(せき・ひかり)さんには、仕事に対する考え方が変わった出来事がある。親友の死。ガンを患って29歳の若さで他界した。当時、保険会社に勤務していた石さんは営業の仕方を変え、その意識は経営者になった今もぶれない軸になっている。
シングルマザーによる仕事代行「mamayoro(ままよろ)」を運営している「Vario’s合同会社」の代表・石さんは、仕事をする上で流儀がある。石さんはシングルマザーに紹介する業務を企業から取ってくる営業をしているが、「仕事をください」とは口にしない。
収入が必要なシングルマザーに仕事を提供するためにも、自社の売上を伸ばすためにも、企業に営業する。だが、仕事をほしいと言わないのは理由がある。
石さんは現在の会社を立ち上げる前、保険会社で営業をしていた。生来の負けず嫌いで結果を残し、1年目でスタッフをまとめるリーダーに抜擢された。ポリシーとしていたのは、知人や友人を勧誘しないことだった。だが、これが悔いを残してしまう。
順調に営業成績を伸ばしていたある日、10代の頃からの親友から連絡が来た。「ガンが見つかった」。お見舞いに行くたびに、親友は目に見えて痩せていった。ガンと診断されてから3か月。29歳で他界した。保険の必要性を伝えていれば。石さんは自分を責めた。
「別人のように痩せていく彼女が気にしていたのは、シングルマザーとして育ててもらった母親のことでした。保険に入っていれば母親の金銭的な負担を減らせましたし、彼女自身も治療法を選べました。保険に入るかどうかは本人の判断ですが、せめて保険の役割を説明しておけばよかったと後悔しています」
■契約よりも保険の大切さを強調 結果的に営業成績アップ
石さんは親友の死から、普段の生活や仕事への意識を変えた。色んなことに気付かされたという。
「今の時間は今しかありません。あすも同じような日が来るとは限らないので、毎日を大事に生きようと心掛けています」
営業の手法も見直した。これまでは商品を売り込み、契約を取るために注力した。だが、親友が亡くなってからは、保険に入る重要性を訴えた。「うちの会社で入る必要はないので、真剣に保険について考えてほしいと伝えました」。営業先で、生活スタイルや家族構成などを聞き、どんな保険が適しているのか、加入している保険にどんな特約を検討した方が良いのかなどを説明した。あまりに熱が入りすぎ、相手と喧嘩して泣きながら説得したこともあるという。
契約を取ろうとする気持ちは減った。ところが、契約件数は増えた。石さんは成績優秀で全国で表彰された。この時の営業スタイルは、起業してからも変わっていない。石さんは「仕事をください、くださいという姿勢では上手くいきません。困った時に頼ってくださいと伝えています。相手の力になれる仕事にやりがいを感じます」と話す。一時的な関係ではなく、互いのためになる継続的な仕事を目指している。
(間 淳/Jun Aida)